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第四章 逃げ妻は自由を満喫し妻に逃げられた魔王はじわじわと追い詰める
【18】
しおりを挟む話す心算はなかった。
ただ約一ヶ月前の大雨による災害で多くの者達が今も苦しんでいるのをヴィヴィアンも知っていた。
リーヴァイは魔導省長官としてまた皇族でとして率先して復興対策へ奔走していた事も十分理解していた。
だからヴィヴィアンはプライステッド公爵家として彼女もまた率先して被災者への慰問や救援の指示を行っていた最中の騒動だったのである。
今生ではこれまでの人生とは比べようもないくらいに結婚後は幸せに満ちた日々だったのだと、リーヴァイと離れる事で初めて気づいてしまった。これまでの人生と全く違う現実に……。
でもだからと言って愛人いや恋人であるサブリーナが夫の子供だと告げたのも事実?
それにリーヴァイは身の潔白を示す証拠って抑々一体何の為の潔白なのだろうか。
子供は確実にリーヴァイとサブリーナとの愛の結晶であって、ここまでくればヴィヴィアンのバッドエンドは目前と言ってもいい。
そう、今直ぐにでも逃げなければ――――っ!!
シンディーを連れて今直ぐ背後にいるリーヴァイより脱兎の如く逃げ出さなければまた同じバッドエンドを迎えてしまう!!
確かに今までとは違う人生であったけれどもである。
だからと言ってバッドエンドを迎えないとは誰も言い切れないし保証なんてものは何処にも存在はしない!!
運命へ抗う為にこれまで色々と努力をしてきたのだ。それが今になって仕方がないから……何て理由で絶対に諦めきれやしないない。命を投げ打ってでも何度もヴィヴィアンを救おうとしてくれたシンディーの為にもである。このままリーヴァイの甘い言葉のまま彼を受け入れ、そうして帰宅すればきっと同じ事の繰り返しだけは何としても避けなければいけない。
丁度ワンピースのポケットの中には以前作ったステルス・マジック収納バックの最新バージョンでもある、コインケース大の大きさのモノの中にはいざと言う時用の為に例の扉も入っている。
「復興の目途はついたよ。帝都や周辺の被災地も復興は進み概ね人々の生活も完全に元に戻った訳ではないけれどもね。それでもまた平和な日常が戻りつつある。それもこれも貴族として貴女が率先して復興への支援をしてくれたからこそ、他の貴族達も争う様に競って復興へ尽力してくれた。本当に貴女は僕には得難い妻なのだよ」
リーヴァイは漸く言葉を発してくれたヴィヴィアンへほっとすると共に張り詰めていた緊張を解いた瞬間だった。
その一瞬の合間にヴィヴィアンは件のゴム製の扉を出しそして――――⁉
「何回も同じ手を僕には通じないよヴィー。僕は何があろうとも貴女を生涯僕の腕の中より逃がしはしないからね」
ヴィヴィアンの視界に映ったのは妖しくこの上もなく美しい弧を描いた笑み。
得物を捕らえた獰猛な獣そのものと言った熱と慾を孕んでいるだろうギラギラとした緋色ではなく血の様に赤く鮮やかな瞳。
ヴィヴィアンよりも若干太くも逞しい腕に捕らわれてしまったヴィヴィアンは余りの緊張感により意識を手放してしまった。
逃走を図るべく動いた身体と泣きたくなる程に切なくて、逢いたいと願った心にヴィヴィアンの理解は容量オーバーとなってしまった。
恋うる気持ちの何たるや等知らずにこれまで生きてきたヴィヴィアン。
気を失う事で現実から逃避してしまったのかもしれない。
そんな彼女は心の中で謝罪した。
ごめん、なさい……。
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