93 / 120
第四章 逃げ妻は自由を満喫し妻に逃げられた魔王はじわじわと追い詰める
【16】
しおりを挟む問答無用で私室へ乱入してきた男達の手により初めて男と言う生き物の怖さ、そして自身が何の抵抗も出来ない無力な女なのだと知らされれば、心が壊れていくまで何度も犯され続けました。
シンディーはそれに抵抗しわたくしを守ろうとして返り討ちに遭い命を落としてしまいました。
二度目は可哀想にシンディーも道連れとなり、汚らしい娼館と言う場所でわたくし達は何人もの男達に身体だけでなく心までも穢されてしまったのです。何十、何百と無理やり侵された結果何処の誰とも知らない男の子を孕まされ、十月十日で生み落とせばその子とも直ぐに引き剥がされ、また新たな男達へと身も心も穢されていく。
まさにこの世の地獄そのものでした。
そんな狂った毎日の中わたくし達は何回目かの出産の後、十分な休息をとる事も許されず犯し続けられた結果わたくしは結核を患い、シンディーは産後直ぐの交わりの中で大量出血の果てに命を落としてしまったのです。
三度目は日本にいましたけれども、そこでは生憎シンディーとは出会えませんでした。
そうして四度目、場所はまたしても同じ公爵家。
わたくし達は過去と同じく娼館で穢されていく日々の中で簡単に命を落とし五回目の時にわたくしはある事に気づいたのです。
わたくしと出逢わなければシンディーはバッドエンドより抜け出せるのではないのか――――と。
であればシンディーと関りを持たない方がと思えば思う程運命とは実に残酷ですね。わたくしの想いとは真逆にシンディーとは益々関りを持ち、そうしてあの最悪の日を迎えればです。
何とか彼女を隠さなければと支度部屋へ押し込めようとした時には既に遅く、旦那様の凍り付いた声にわたくし達の人生はまたも終わったのだと思った瞬間でした。あの娘は剣を構え男達の前へと躍り出たかと思えば美しい身体を幾つもの切り傷で真っ赤に染め上げ、最期の瞬間までわたくしの為に尊い命を投げうってくれたのです。
わたくしは涙が枯れる事なく永遠に泣き続けました。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
無力なわたくしで本当にごめんなさい。
守られてばかりのわたくしでごめんなさい。
運命に負けてばかりのわたくしでごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいシンディー……。
泣きじゃくるわたくしと既に躯と化したシンディーとはあっと言う間に引き剥がされれば、わたくしは旦那様とサブリーナ嬢の蔑みと嘲笑の中で男達に身体を何度も蹂躙されました。
一体わたくしは過去に何をしたのでしょうか。
そして後何度こんな惨たらしい人生を繰り返せばいいのでしょうか。
何時も答えの出ない堂々巡りを繰り返すわたくし……。
いえ、次こそは……そう次の転生があるのであればその時は必ず、えぇ何があろうともシンディーだけは守ってみせます!!
譬えどの様に嬲られようとも、この身がどれ程の汚辱に塗れようとも決してシンディーだけは助け出してみせます!!
そう心に誓って六度目の転生で漸くです。本当に漸く今迄とは違う人生、然も旦那様の目の前で逃げ切れられたのも驚きでしたわ。確かに今までの人生と今回の人生は異なる点が色々とありましたわ。それも数え切れない程……にね。
そんな中でも一番の驚きはやはり旦那様との関係です。
今までは清くも真っ白な関係だったのがそ、そそそのですね、此度は何と申しますかその……え、えぇ申し上げるのであればその……小説に書かれている様なごく普通の夫婦だったりしたのです。
今までの様な視線が合った瞬間に全身が凍ってしまいそうな感じではなく、初めてお逢いした6歳の頃もですがそれ以降もとてもお可愛らしくまたお優しくて、最初にプロポーズをなさった瞬間はやはり恐ろしいと感じはしましたがでも決して嫌……ではなかったのです。
繰り返しの人生に恐怖を思い出しながらも旦那様の優しさに嬉しさを感じて到頭婚姻してしまいました。
旦那様との初めての夜も物凄くお優しくて、それ以降も毎日逢う度に『愛している』と言う言葉と慈愛に満ちた笑顔を向けられる事で初めて、そうですわね。身体を重ねる事がこれ程幸せだと感じたのは生まれて初めてだったのです。
でも幸せは長くは続かないって小説に書いてあった通りでしたわ。
あの日サブリーナ嬢がお屋敷へ訪れ『初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました』と告げられた刹那、ああやはり此度も……。
ふふ本当にあの場で貴婦人らしくなく、その場で泣き崩れたい衝動に駆られたのは一体何故なのでしょうね。
これまで旦那様は恐怖の対象でしかなかったと言うのにです。不思議と今の旦那様からは今までの旦那様とは違う……そうですわね。
何故か旦那様があの日の結人さんと重なるのはどうしてなのでしょうか。
また漸く旦那様より逃げ出したと言うのにです。こうして毎日が穏やかで幸せに満ちていると言うのにどうしてなのでしょう。
心の何処かで貴方を待っているわたくしがいるのは、何故……なのでしょう。
貴方から逃げなければいけないのにどうして、こんなにも逢いたいと願ってしまうのでしょうか。
こんな気持ちなんてわたくしは知らな……。
「泣いているのかな? 僕の可愛い奥方は……」
「――――……っ⁉」
余りの衝撃と懐かしさにわたくしは暫くの間一言も声を発する事が出来ませんでした。
26
お気に入りに追加
3,410
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる