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第四章 逃げ妻は自由を満喫し妻に逃げられた魔王はじわじわと追い詰める
【16】
しおりを挟む問答無用で私室へ乱入してきた男達の手により初めて男と言う生き物の怖さ、そして自身が何の抵抗も出来ない無力な女なのだと知らされれば、心が壊れていくまで何度も犯され続けました。
シンディーはそれに抵抗しわたくしを守ろうとして返り討ちに遭い命を落としてしまいました。
二度目は可哀想にシンディーも道連れとなり、汚らしい娼館と言う場所でわたくし達は何人もの男達に身体だけでなく心までも穢されてしまったのです。何十、何百と無理やり侵された結果何処の誰とも知らない男の子を孕まされ、十月十日で生み落とせばその子とも直ぐに引き剥がされ、また新たな男達へと身も心も穢されていく。
まさにこの世の地獄そのものでした。
そんな狂った毎日の中わたくし達は何回目かの出産の後、十分な休息をとる事も許されず犯し続けられた結果わたくしは結核を患い、シンディーは産後直ぐの交わりの中で大量出血の果てに命を落としてしまったのです。
三度目は日本にいましたけれども、そこでは生憎シンディーとは出会えませんでした。
そうして四度目、場所はまたしても同じ公爵家。
わたくし達は過去と同じく娼館で穢されていく日々の中で簡単に命を落とし五回目の時にわたくしはある事に気づいたのです。
わたくしと出逢わなければシンディーはバッドエンドより抜け出せるのではないのか――――と。
であればシンディーと関りを持たない方がと思えば思う程運命とは実に残酷ですね。わたくしの想いとは真逆にシンディーとは益々関りを持ち、そうしてあの最悪の日を迎えればです。
何とか彼女を隠さなければと支度部屋へ押し込めようとした時には既に遅く、旦那様の凍り付いた声にわたくし達の人生はまたも終わったのだと思った瞬間でした。あの娘は剣を構え男達の前へと躍り出たかと思えば美しい身体を幾つもの切り傷で真っ赤に染め上げ、最期の瞬間までわたくしの為に尊い命を投げうってくれたのです。
わたくしは涙が枯れる事なく永遠に泣き続けました。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
無力なわたくしで本当にごめんなさい。
守られてばかりのわたくしでごめんなさい。
運命に負けてばかりのわたくしでごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいシンディー……。
泣きじゃくるわたくしと既に躯と化したシンディーとはあっと言う間に引き剥がされれば、わたくしは旦那様とサブリーナ嬢の蔑みと嘲笑の中で男達に身体を何度も蹂躙されました。
一体わたくしは過去に何をしたのでしょうか。
そして後何度こんな惨たらしい人生を繰り返せばいいのでしょうか。
何時も答えの出ない堂々巡りを繰り返すわたくし……。
いえ、次こそは……そう次の転生があるのであればその時は必ず、えぇ何があろうともシンディーだけは守ってみせます!!
譬えどの様に嬲られようとも、この身がどれ程の汚辱に塗れようとも決してシンディーだけは助け出してみせます!!
そう心に誓って六度目の転生で漸くです。本当に漸く今迄とは違う人生、然も旦那様の目の前で逃げ切れられたのも驚きでしたわ。確かに今までの人生と今回の人生は異なる点が色々とありましたわ。それも数え切れない程……にね。
そんな中でも一番の驚きはやはり旦那様との関係です。
今までは清くも真っ白な関係だったのがそ、そそそのですね、此度は何と申しますかその……え、えぇ申し上げるのであればその……小説に書かれている様なごく普通の夫婦だったりしたのです。
今までの様な視線が合った瞬間に全身が凍ってしまいそうな感じではなく、初めてお逢いした6歳の頃もですがそれ以降もとてもお可愛らしくまたお優しくて、最初にプロポーズをなさった瞬間はやはり恐ろしいと感じはしましたがでも決して嫌……ではなかったのです。
繰り返しの人生に恐怖を思い出しながらも旦那様の優しさに嬉しさを感じて到頭婚姻してしまいました。
旦那様との初めての夜も物凄くお優しくて、それ以降も毎日逢う度に『愛している』と言う言葉と慈愛に満ちた笑顔を向けられる事で初めて、そうですわね。身体を重ねる事がこれ程幸せだと感じたのは生まれて初めてだったのです。
でも幸せは長くは続かないって小説に書いてあった通りでしたわ。
あの日サブリーナ嬢がお屋敷へ訪れ『初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました』と告げられた刹那、ああやはり此度も……。
ふふ本当にあの場で貴婦人らしくなく、その場で泣き崩れたい衝動に駆られたのは一体何故なのでしょうね。
これまで旦那様は恐怖の対象でしかなかったと言うのにです。不思議と今の旦那様からは今までの旦那様とは違う……そうですわね。
何故か旦那様があの日の結人さんと重なるのはどうしてなのでしょうか。
また漸く旦那様より逃げ出したと言うのにです。こうして毎日が穏やかで幸せに満ちていると言うのにどうしてなのでしょう。
心の何処かで貴方を待っているわたくしがいるのは、何故……なのでしょう。
貴方から逃げなければいけないのにどうして、こんなにも逢いたいと願ってしまうのでしょうか。
こんな気持ちなんてわたくしは知らな……。
「泣いているのかな? 僕の可愛い奥方は……」
「――――……っ⁉」
余りの衝撃と懐かしさにわたくしは暫くの間一言も声を発する事が出来ませんでした。
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