【改稿版】旦那様、どうやら御子がおデキになられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉ 

Hinaki

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第四章  逃げ妻は自由を満喫し妻に逃げられた魔王はじわじわと追い詰める

【閑話】 秘書官バードより

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 △ ◆ △


 私の主はエアルドレッド帝国いえ、この世界に置いて最も尊い血筋を受け継がれる御方なのです。

 いや、そのもの……なのでしょうね。

 また血筋だけではなく生まれ持った類稀なる様々な才能と共に、いえはっきりと申しまして私の次に仕事の出来る男性です。普通に、そうあくまでもそれは表向きの姿に御座いますよ。

 我が帝国の人気を二分すると言われている皇太子殿下とその御従弟君であられると同時に、この私が生涯をかけてお仕えさせて頂く予定の主、プレイステッド公爵家当主リーヴァイ・マクシミリアン・カートライト様です。

 確かにリーヴァイ様は何かにつけてとても優秀な男性ですよ。
 表向きは勿論裏等でも……ですね。

 まあ裏と申しましても何ら後ろ暗い、ある意味後ろ暗い行動は否めませんがそれでもあの御方にとって唯一の御方の為だけと言う限定付きなので、そこはお父君であられる大公殿下は元より皇帝陛下までもが今では黙認されておられます。
 

 私――――ですか?


 現在の私はリーヴァイ様の乳兄弟、また忠実な執事故に少々難ありな主を持ってしまったのだと、フィンドレイ家に生を受けた以上それは一種の諦めと申しましょうか。あの御方の尻拭い……いえいえ行動の全てを如何に隠密裏でなかった事にするのかを今では生き甲斐にしております。

 そう遥か昔より、あぁ今はリーヴァイ様が6歳の頃よりですね。

 本当に今でこそです。
 漸く晴れて無事にリーヴァイ様の奥方となられましたヴィヴィアン様と初めて出逢われた瞬間より、あれは初恋と申しますかそれとも長年煩わせ拗れに拗らされた想いを成就……はっきり申しまして単なるストーカーとも申しますかね。そのストーカー具合が同性の目線から申しましてもかなり病んでおりました。

 最初こそは正直に申しまして色々と戸惑いましたよ。
 何しろ今の私はリーヴァイ様と二歳しか年齢の離れていない当時はまだ8歳の少年でしたので……。

 ある意味同年代の男児には到底考えられない、毎回私の想像を遥か斜め上を貫く行動をなさっておいででしたよ。
 一時期は本当に心が病んでおられるのかと、まだ私が何も知らなかったとはいえです。当時はプライステッド大公殿下の執事をを務めていた兄ダレンへ何度となく、8歳の子供とは言えそこは本能的に女である母親へ相談する案件ではないと悟りましたのでね。ですので母親のいない間に父親ではなく何故か兄の執務室でこっそりと相談を持ち掛けたものですよ。

 今にして思えばそれも楽しい幼い頃の思い出の一つです。

 いやいやここで思い出に耽るのはまだ早いですね。

 先ずは先日旦那様の目の前で奥方様……アレは何時頃でしょうか。
 旦那様は自身の力の及ぶ範囲にいる者全てに奥方様を名前で呼んではいけないと厳命されたのです。

 屋敷内の者は当然ですが領内のカントリーハウスで仕える者だけでなく領民にまで、そして挙句の果てにはお父君であられる大公殿下は勿論、この国の最高位であられる筈の皇帝陛下や皇太子殿下にまで……と、一体どちらの立場が上なのか微妙な力関係が垣間見えました。

 何と申しましても権力的には皇帝陛下の方が上位なのは当然ですけれども、甥に当たるリーヴァイ様の体内で内包される魔導力は底が見えません。こうして長年お仕えしている私でもその魔導力の大きさには毎度驚かされているのです。
 
 大公殿下曰く恐らく皇室始まって以来……いえ、このエアルドレッド帝国を築いた初代皇帝陛下に匹敵するとまで言わしめている御方が私の旦那様なのです。だからこそ奥方様の件で万が一魔力を暴走されでもすれば帝国はおろかこのモンクリーフ大陸いや、周辺の大陸や島々にも大小様々な影響は少なからずあるでしょう。

 ですがそれがリーヴァイ様ならばある意味当然の事なのでしょう。
 そういった経緯もあり伯父君であられる陛下もある程度はリーヴァイ様の暴走に黙認されておいでなのです。

 但し本当にヴィヴィアン様いえ、奥方様限定です。

 そこは旦那様もちゃんと弁えておられています。
 何しろ旦那様の興味の全ては奥方様お一人だけのものなのです。
 そこにそれ以上や以下も御座いません。

 なのに何処で誤解をした?
 いやあれはわざと仕込んだものでしょうが、旦那様の子供だ偽り当家へ乗り込んできたサブリーナと言う女によって……ですかね。

 まあ昔から色々とやらかし系の女ですね。

 少々私的には微妙なのですがあの日奥方様は突如旦那様の目の前で出奔なさいました。
 確かに目の前で突如逃走された奥方様の大胆な行動に少しばかり旦那様は驚かれておいでになられていましたが、ただです。ほんの少し……いいえ背後に一部の隙もない程の漆黒の闇を抱えられた旦那様は、同性である私でもはっと驚く程の美しく弧を描いた、妖しくも艶やかな笑みを湛えられ――――。 

「僕の、この俺の唯一にして愛し過ぎるローザ……ヴィヴィアン・ローズ。果たして貴女はこの俺より何処まで逃げられるのかな。それに今から逃げ惑う貴女をじわじわと追い詰めていくのかと思えば俺は全身がゾクゾクしてこの上ない程の幸福感に満たされてしまう。ふふ、でも決して逃がしてはあげられない。何故なら貴女の髪の毛一本いや、唾液の一滴ですら全てはこの俺のものなのだからね。あぁ次に愛おしい貴女に逢える日が本当に愉しみで仕方がないよ」


 はっきりと申しまして旦那様のお傍で、彼の心の想いが漏れ聞こえている私達の方が違う意味合いで全身がゾクゾクしておりましたよ。

 その証拠にウィルクス夫人も兄ダレンも表情筋が完全に強張っていましたからね。

 はあ、この様な旦那様で本当に奥方様には申し訳ないと思います。

 ですが旦那様には奥方様しかおられないのです。
 色々な意味合いで旦那様ご自身が全てを晒す事の出来る御方が奥方様なのです。

 確かにこれはかなり重い、一人の女性が抱えるには重過ぎる愛情に御座いますがどうか奥方様、我らの心の安寧の為にもここは一日もお早く旦那様の許へ堕ちて下さいませ。
 

 あ、これはいけませんね。
 既に旦那様の方が我慢の限界の様です。
 誠に申し訳ありませんが近々そちらへお迎えに上がるかと思いますので、どうかそのお心積もりだけはしておいて下さいませ。

 最後になりますが奥方様大変ご愁傷さまにございます。
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