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第四章 逃げ妻は自由を満喫し妻に逃げられた魔王はじわじわと追い詰める
【7】
しおりを挟むゾーエは意志を持つ魔の植物である。その花より醸し出す香りを嗅いだ生物、特に魔獣は大小の形態に拘らず花より放たれる匂いへ惑わされるとその何とも言えない香りに誘われるままずるずるとゾーエの下へと引き寄せられるらしい。匂いが一瞬でも対象となる魔獣の鼻腔を通り脳内で感知されれば最期である。魔獣自身に一切の拒否権はなく、ゾーエの花の命ずるままに引き寄せられば自ら進んで花の中へと身を投じてしまう。
ゾーエとは伸縮自在な恐ろしい魔の植物。
大きさもその詳しい生態すらもはっきりした事は殆どが解明されてはいない。
ただ匂いに魅せられ捕獲対象となれば、どの様な魔獣……勿論人間であっても決して逃げられはしない。
ゾーエが対象を餌と認識されれば捕食側は逃げられないのである。
「何でっ、いやいやゾーエがここにあるんだって話だよっ!!」
「そ、そうだね」
二人が不思議がるのは何ら可笑しくはないがしかしシアは別に差して問題はないと言わんばかりに胸を張れば淡々と述べたのである。
「それは我が家の裏にゾーエがいるからでしょうか」
「「はあっ⁉」」
「そこまで驚かなくとも、まぁ話せば長くなるのですが……」
「長くて結構って言うかどうしてっ⁉ 然も何でヴェルデの管轄圏内にそんな物騒なもんがいるのよぉぉぉぉぉぉっ⁉」
フェンの表情は既にム〇クの叫びと化している。
「簡単に言えばローズ様が樹海へ行って株を、ゾーエ本体より分けて貰ったのです」
「「はあっ、なんでゾーエが株分けなんてモノをしてくれるんだよっ!!」」
「まぁそこはローズ様とゾーエとの話し合い……ですね」
「ゾーエが人語を理解出来るなんて聞いた事ががねぇぞっ」
「そ、それに何でローズが樹海って、そ、そんな……もしそれが本当だとすればちょ、ちょっとそれはまた別件でごにょごにょ……」
「まあ簡単に言えばローズ様とゾーエとはウィンウィンな関係なのですよ」
「「ウィンウィンってなモノが成立するのかーい!!」」
果たして詳細が全くわからない魔性植物のゾーエと抑々どうして、そして何処までがウィンウィンなのだろうかとフィンとジークの脳内で突っ込みどころが実に満載だとほぼ同時に思った。
だが目の前のシアにしてみればこれは彼女の敬愛するローズの作り出したる魔道具を彼女の代わりにギルドへ届けに来ただけであり、当然の事ながらこれ以上問い掛けたとしても恐らく正確な答えは導き出せないだろうと思い至る。
「……一度ローズさん家へ行ってもいいか(かしら)?」
「はぁ、それは宜しいと思いますが色々とモノがありますのでそれらを決して破壊しない様にして下さい。それさえ守って頂ければ大丈夫ですよ。あ、それからフェンさんは大丈夫だとは思いますがジークさん、くれぐれも自身の身は自分でしっかりと守って下さいね」
何時もはツンとした表情のシアがこの時だけは妙に妖しいまでも美しい微笑みを湛えながら付け加えた。
シアの謎な微笑にジークは何とな~く嫌な予感めいたものを感じつつも、そこは根っからの冒険者たる焔鬼のジークである。
謎が深まり危険が増せば増す程に、冒険者として俄然やる気が湧いてくるらしい。
「ふん、何でもいいさ。この焔鬼のジーク売られた喧嘩は片っ端から買い取ってやるってよ」
「何も最初から売ってはいませんけれどね」
そうして二日後にフィンとジークは街外れにあるローズの家へと尋ねる事となったのである。
今回の魔獣ホイホイの件も改めてローズより説明を詳しく乞う予定だ。
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