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第四章 逃げ妻は自由を満喫し妻に逃げられた魔王はじわじわと追い詰める
【1】
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「やあシア、今日も持ってきてくれたんだ」
「ソウデスガナニカ?」
文句なしの仏頂面で店へと入ってきたのは、燃え盛る炎の様な赤い髪を可愛らしくポニーテールに結い上げ……ではない。きっと彼女にしてみれば色々と動く上でそれがベストな髪形だけだったのであろう。
次に印象的な髪と共に目を引くのはこれまた何処までも澄み切った青い空を思わせる瞳は、常に周囲(男性限定)を威嚇しているのは目鼻立ちのかなり整った、いやいや断じてかなりではない。
周囲の男達を野獣の如く威嚇していようともである。
凛とした佇まいに洗練された美しさに加え、彼女はそれを上手く隠していると思い込んでいる様なのだが実際のところ全く隠しきれてはいない美し過ぎる造形と所作。
そんな彼女は何物にも穢される事のない孤高の女神を彷彿とさせてしまう。
ここはアンテス大陸の末端に位置する街ヴェルレ。
大陸内で名を馳せるだろう数ある王国にある王都の様な大都会と比べればこの街は差し詰め月と鼈。
勿論後者である。
ヴェルレの街はローマン王国……アンテス大陸内でも余り知られていない弱小国で、ローマンの中でも本当に小さな街の一つに過ぎない。いやいや小国ローマン王国にしてみればギルドがあるだけでもヴェルレは立派な街なのである。規模はかなり小さいけれどもギルドがある以上他の街に比べれば十分賑わっているのだ。
そんなヴェルレの街へ突如現れたのは目の前にいるよく研がれ、紙が落ちただけでもスーッと切れてしまいそうな刃の如くキレッキレな美女と、これまた正反対でふっくらふわふわな体型をした三十代?
はっきり言って年齢不詳な可愛らしい系を伴った女性の二人連れ。
目の前にいるシアと名乗る成人前後の乙女は自身の持つ美しさに全く頓着する事は無く、明らかに誰が見てもふっくらふわふわな年齢不詳の女性を全力で護っている麗しの女性騎士と言ったところだろうか。
一方ふっくらふわふわな女性は見た目もだが話し方や佇まい、ほんの小さな所作から彼女の作るお菓子等、そう彼女の全てがふっくらふわっふわの、きっと彼女自身をぺろりと一舐めすればマシュマロの様にシュワ~っと口の中であっと言う間に蕩けてしまいそうな錯覚さえ起こしてしまうくらいの可愛らしい存在。
シアが孤高の女神だとすればその女性は慈愛に満ちた麗しくも優しい女神。
だがヴェルレの男達は既に色々な意味で理解しているのである。
ローズと名乗る魅惑的且つふわふわなお菓子を一時の慾に駆られほんの一舐めでもしようと考えただけできっと、いやこれは最早絶対なのだと断言出来たのだ。
甘いローズを護るキレッキレの女性騎士シアによる血の制裁が確実になされる事を!!
それを実際に目にした男達はいや、実際にローズをぺろりと舐めた訳ではない。ただ偶々酔っ払った不運な旅人がその日出歩いていたローズを見つけてちょっかい……そう軽く声を掛けただけなのなのである。
『よぉ姉ちゃん、いい身体してる――――〇×▲*□っ⁉』
ただそれだけだった。
手も足も何も出してはいないし、当然旅人やローズに衣服の乱れ等はない。
それも当然なのだ。
旅人はただ声を掛けかけただけ。
だがそれだけでも―――……。
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