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第三章 それぞれの闇と求める希望の光
【25】
しおりを挟む結果その日初めてわたくしは転移魔法なるものを体験しました。
転移した先は大公殿下の執務室で、当然殿下は執務中でした。
突如現れたご自身の息子様と大きなコブ……わたくしの出現に殿下は大層驚かれになられ、わたくしはと言えば余りのショックで直ぐに意識を失いました。
何と申しましても人生初の体験でしたもの。
そうして目覚めた時は大公邸の客間へ運ばれたらしくそれに加えどうやら厚かましくも寝台にてそのまま爆睡していたようです。
そ、その……眠っていた時間はと言いますと翌日の朝までですわね。
自分でも余りの太々しさに呆れを通り越して恥じ入っておりますもの。
大公家の侍女によって身支度を整えたわたくしはしっかり朝食まで頂き、食後のお茶の席で大公殿下より直々に謝罪をされかけたのをわたくしは一臣下としてとんでもないとばかりに色々説明をさせて頂き、またご丁寧にミルワード侯爵家のタウンハウスまで送って頂きました。
最後に暇をする前にリーヴァイ様のご体調等を窺いましたの。
何と申しましても10歳のお子様が人間二人を一瞬で、然も無傷で約千㎞もの距離を転移したのですもの。
それこそ何かしらの後遺症があっては大変です。
しかし殿下からのお言葉は――――。
「身体の方は問題ない。ただ……約束を違えた罰として部屋で謹慎させているのだよ。あれは多少我儘な所がありそれを可愛いと思う反面、将来に背負うだろう責任と義務の大きさをまだまだ分かってはいないのでね」
「はあ、まあ……」
「それに幾ら何でもミルワード侯爵家の令嬢を危険に巻き込んだ事は由々しき問題だよ。譬え此度は大事がないからとは言えだ。何度も貴女を危険に晒す事は許される道理がない」
「いえっ、わたくしの事よりもリーヴァイ様のお身体の方が大切ですわっ」
そうなのです。
何と申しましてもリーヴァイ様は皇族。
一介の貴族とは天と地程の差があるのですもの。
「ああ貴女は本当に優しいご令嬢だね。どうか今後とも私共々息子を宜しく頼むよ」
「はい、え、いえその様なっ。わたくしこそですわ殿下」
にこやかな、とても人当たりの良い笑顔を湛えていらっしゃる殿下にわたくしは一体これより先何を頼まれるのでしょうか。
そこは皇室へ忠誠を誓っている一臣下として……ですわよね。
でも、何故なのでしょう。
何やら背筋に冷たい何かを感じるのはわたくしの気のせいなのかしら。
こうしてわたくしの突撃駆け込み修道院は呆気なく失敗しましたの。
この件に関してお父様は昨夜の間に大公殿下より仔細をお聞きになり、ある程度の状況を把握されておられます。
リーヴァイ様の事は兎も角です。此度の原因となったわたくしに対しては数日経った今でも何故か一切叱責される事はありません。絶対にお小言くらいは聞かされるものだと覚悟をして屋敷へと戻ったと言うのにですよ。
い、いえ、何もお父様に怒られたいと言う訳ではありませんわ。
ただ、少し肩透かしを食らってしまった感じだけですわ。
お母様とお兄様は本当に何もご存じのないご様子だったので、わたくしの中でほんの少し罪悪感を抱えつつも知られなくて良かったとほっこり一安心をしている自分もいましたわ。
とは言えです!!
だからと言ってバッドエンドな未来は何も変わっておりません。このままではわたくしには腹ボてエンドがほら、向こうで陽気に手を振って待っていらっしゃいますわ。
いえいえ断じてその様にフレンドリーな感じで待たれては困ります。
修道院が失敗したのであれば次は何と致しましても婚姻!!
決して多くを望みません。
平穏無事に人生を終えられるのであればはっきり言って誰でもいいのです。
なのでわたくしは暫くの間必死に婚活なるものを頑張りましたの。
しかしどうしてなのでしょう。
23歳となり24歳になってもお相手は中々現れず、少し……そこは地味に傷ついている25歳のある日の事でした。
それは本当に、えぇ突然の事でしたわ。
なんと北壁の守護神と呼ばれし麗しの辺境伯様より後妻となりますが婚約の打診がやってきましたの。
勿論わたくしは即OKと言う旨をお伝えすればです。
漸くバッドエンドな未来が回避出来るのだと、もうそれはそれは毎日が夢見る少女の様にお部屋で小躍りをしていましたのよ。流石にお母様やアンナにもはしたないと何度も怒られましたけれどもね。
でも、でもですわ!!
お相手の辺境伯様はわたくしより10歳年上ですがとても爽やかで麗しい御方ですの。
お父様より漏れ聞いたお話によると領地経営も問題なく、五年前に奥方様をご病気で亡くされましたものの特に浮ついた噂もなくとても優良な物件だと仰っておいででしたわ。
そうして幸せな気持ちで新しいドレスを新調すればです。
来月の中旬に婚約式を行い翌年には晴れて辺境伯夫人になろうとした矢先の事でしたの。
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