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第三章 それぞれの闇と求める希望の光
【21】
しおりを挟むわたくしは侍女のアンナに荷造りを整えて貰えばそのまま彼女と数名の護衛を伴い慌ただしくタウンハウスを出立しましたの。
本当はちゃんとお母様とお兄様にもご挨拶をしてから出立したかったのですが、やはり思い立ったが吉日――――と申しますでしょ。
えぇ勿論わたくしは諦めて等おりませんわよ。
お父様が異を唱えられるのは最初から想定内でしたもの。
お母様やお兄様に相談すれば絶対に説得されるのは火を見るよりも明らかなのです。
ではもう少し年齢を重ねれば反対されないのでは……とも一瞬だけ考えました。
いえもう無理なのです!!
わたくし自身今朝になって全ての記憶を取り戻したばかり。多少の記憶の混乱は致し方ありませんと申しましょうか。ですが六度目ともなれば流石に些少の事では動じなくもなったと思っていたのは些か間違っていたようです。
えぇ全ての記憶がクリアへとなっていくと同時に、言い様のない不安が覆い被さる様にわたくしの身体を包み込んできましたの。
それは本当にあり得ない事。
本当に、何故なら過去四度の前世では決してなかったもの。
あれは今より四年も前の事ですわ。
あろう事かわたくしは既にリーヴァイ様と出会っていたのです!!
いいえそれだけではありません。
どうしてなのか過去四度の前世においてわたくしが34歳になるまでは本当に接点となるものがなかった筈なのにです。あぁ高位貴族ですから舞踏会場での挨拶くらいは勿論しましたよ。でもそれはただの社交辞令なだけです。
でも何故かこの四年の間に気が付けば……あぁ多分これは偶然だとは思いたい。とは言えどうしてなのかお茶会へ出席をするとそこには笑顔のリーヴァイ様が出席されておられたのです。
また母君を失くされた彼を記憶のなかったわたくしは会う毎に実の姉の様に抱き締め、楽しくお話をしていたのですもの!!
一体これはどういう事なのでしょう。
今までの前世と全く違う展開に、ですが当のリーヴァイ様はそれはもうお可愛らしくそれに幼いのにも拘わらず何かにつけほんの少し背伸びをしたかと思えばです。
紳士然とした立ち居振る舞いをなされているその御姿はとても微笑ましいと感じておりました。
でも、でもですわ!!
譬え、そう今までの前世と何かが違うとしてもです。
それこそわたくしがあの日あの時結人様と奇跡の様な出逢いをした様に、リーヴァイ様とも此度は何か違うものがある可能性はないとは言えないでしょう。
でもそれでもなのです。
やはりわたくしは一度だけでも平穏で心穏やかな人生を望みたい。
そしてそれによって救われる者もいるのです。
だからこそこれ以上リーヴァイ様のお目に留まる訳には参りません。
今ならばまだ間に合うと、何故ならリーヴァイ様はまだ10歳のお子様。
きっと直ぐに新しい事へと目をお向けになられるでしょう。
そしてその間にわたくしはこの勢いのまま出家をし、清く正しく生きてまいります。
また万が一お父様が強制的に還俗をさせようとなさる前にわたくしは修道院へたっぷりと恩を叩き売りつけるのみですわ!!
コホン。
今はまだ明らかには出来ませんがこれも全ては日本で生きたが故にある能力と知識の賜物です。
今後わたくしはこの能力をフルに活用すれば修道院をより一層発展させる事でお父様と対抗しようと考えましたの。
まだ上手くいくかは分からないですけれどね。
こうして今も車に揺られながら二泊三日の旅程となる間、侍女で乳姉妹でもあるアンナは隣でぶつぶつとまだ文句を言っております。どうやら帝都でいい御方と出逢えたらしいのですけれどわたくしの我儘の所為で離ればなれになってしまった様です。
ごめんなさいねアンナ。
でもあと数日すればあなたを無事に解放しますからね。
だから最後の我儘にどうか付き合って下さい。
ミルワード領へは明日の午後に着く予定です。
今夜はこの宿場町で泊まればその間に車の燃料となる魔石を交換して明日の朝出発となります。
まだ運転手やアンナ、護衛の者達にも最終目的地である修道院の事は内緒にしています。
そうミルワード領内に入れば直ぐに郊外にある修道院へ目的地を変更しそのまま問答無用で突き進むのです。
最後まで皆を騙すような結果になってごめんなさい。
わたくしは道中何度も心の中で皆へ謝罪をしておりました。
でも失敗する訳にはいかな――――っ⁉
何故貴方が、どうしてここにいらっしゃるのでしょう。
もしかしてこれも全ては夢……なのでしょうか。
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