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第三章  それぞれの闇と求める希望の光

【11】

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 わたくしの生家であるミルワード侯爵家は確かに名家でありながらどの派閥にも属さず、常に中立を保ってまいりました。
 侯爵である父も生来争いを望まない温厚な人柄でしたし、皇家にしてみれば多少年齢は離れていたとしてもです。 
 争いの種を生まないわたくしの様な女を駒として使うには丁度良かったのでしょうね。

 ただしお若い旦那様にしてみればとんだとばっちり以外何物でもなかったのは言うまでもありません。
 それはそれはお若い頃より若くも美しい華やかな令嬢方より、とてもおもてになられる御方ですもの。
 あと数年年が離れておれば親子程にと申しても差し障りのないわたくしがですよ。
 麗しい旦那様の妻に等烏滸がましい以外の何物でもないでしょ。

 その証拠に旦那様は婚前よりお付き合いのある令嬢をいたくお気に入りでしたし、わたくしとは正式に婚姻を結んではいましたがその関係はとても清くも儚いものだったのです。
 またその方以外にも多くの女性との関係を、まるで形だけの正妻であるわたくしへ見せつける様に……本当にそこまでなさらなくともわたくしは旦那様へ何の期待をする事もなく、ただ命じられたままに婚姻を結んだだけですのにね。


 わたくしはただただ平穏な人生を送る事だけを心より望んでおりました。
 とは言え貴族の婚姻とは一種の契約であります。特にわたくし達夫婦は愛情を育む事がないのも重々承知しております。
 なのでわたくしは何も期待せずただ与えられた公爵夫人としての務めを、流石に子を生す事は出来ませんがそれでも出来得る事を努力してきた心算だったのに……。
 

 それさえも旦那様にしてみれば許されない事だったのでしょうね。
 故にわたくしの末路は何時もとても惨めで悲惨なものでした。
 
 この先わたくしは何度転生すればこの様な生き地獄より脱出出来るのでしょうか。
 わたくしは平穏を、出来れば生涯独身でいたいと望んでいるのに、何故たった一つの望みさえも叶えさせてはくれないの。

 本当にこの世界は何時もわたくしにとって決して優しくはないのですよ。
 腹立たしい程にね。


 それにわたくしはこれまでに五回死に、そして此度で六度目の転生となりますの。

 最初の人生はまぁ何もかも……えぇ全ては初めての事ばかり。
 ふふ、普通一般的にそれが当たり前なのですけれどもね。
 なのでわたくしはあるがままを当然の様に受け入れましたの。

 淑女であり侯爵令嬢としてのわたくしの人生をね。

 気付けば何時の間にか祝福の姫巫女と呼ばれ、でもわたくし自身にしてみれば何もかも身に覚えのない酷く曖昧で自由に行使すら出来ない未知の力。

 そしてその訳の分からない力に翻弄される自身を。
 一貴族として皇帝陛下の命へ逆らう事を許されない身の上を……。

 王命により年の離れた夫との形ばかりの婚姻を。

 夫がわたくしではない若い令嬢達と沢山の愛を囁いている現実を。

 ある日夫との子を宿したと告白した若くも可愛らしい令嬢と仲睦まじく寄り添う夫が、何故なにゆえ侯爵家の令嬢であったわたくしを実家へ戻さす事もなく、いいえあの瞬間まで決して見た事のない恐ろしい場所で、あの沢山の汚らわしい男達が下卑た笑みと汚らわしい身体で以って群がりそしてわたくしを――――嫌ああああああああぁぁぁ⁉


 夫と令嬢と幾人もの男達はわたくしの全てを、身体を、心を、希望や尊厳の何もかもを粉々へと打ち砕けば、絶望と失意と汚辱の中でわたくしは絶命した事も全て、ええ全てでしたわ!!

 与えられたものを抗う事無く享受するしかなかった愚かなヴィヴィアン・ローズ。
 そうしてこれで全てが終わったのだと、愚かにも勘違いのまま死んでしまったヴィヴィアン・ローズ。

 ですがこの世界は決してわたくしに優しくはなかったのです。

 それを知ったのはやはり二度目となる転生で、22歳の誕生日の夜に悍ましくも穢され続けた前世を悪夢と言う形で以ってまざまざと思い出してしまったからなのです。
 しかし二度目のわたくしは……えぇ自分で申しますのも可笑しいのですがその……ね、生来わたくしの性格が実におっとりとしたものでしたので、流石にそれが過去に自身が現実として体験したものだとは素直に思えなかったのです。

 思えば二度目の転生までがある意味世間知らずな深窓の令嬢であったわたくしたったのでしょう。
 だから愚かにも前世の忠告を『恐ろしい夢……』と処理してしまいましたの。
 でもまさかその夢の通りの未来が待っているなんて誰が想像出来ます?
 
 あぁそうですわね。
 二度目の死を目前に迫った瞬間にわたくしは思ったのです。

 旦那様と婚姻を結んだ際に気付けば良かったのだと。

 いえもっと早く気付けば悍ましい悪夢は回避出来たのかもしれませんでしたのに、二度目のわたくしがその事に気付いた時はもう直ぐ傍近くまでバッドエンドがひらひらと大きく手を振って待っていましたの。

 えぇ思い出したくもない腹ボてエンドが……ね。
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