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第三章 それぞれの闇と求める希望の光
【3】
しおりを挟む「リーヴァイ大事ないか!!」
「ち、父、うえ……?」
時間にしてほんの数分の出来事であったと思う。
だがたったそれだけで全ては終わっていた。
父によって身体を引き起こされた俺の傍近くにはうつ伏せで倒れている母上の姿。
そして俺の背後には五人の黒装束を身に纏った刺客達。
既に事切れているだろう刺客達はこの際どうでも良かった。
俺は恥も外聞も何も関係なく涙を飛ばしながら倒れている母の許へと飛びついたのだ。
「は、母上っ、母上っ、しっかりして下さい母上!! 母うぅ゛……⁉」
「リーヴィ……よか、った事。あな、たが無事で母は、安心……しました、よ」
「アリシア!!」
母上は最初に俺の無事を確かめ、そしてゆっくりと父上の顔を名残惜しげに見つめていた。
「い、今直ぐ医師をっ、誰か聖女を!!」
「……もう無理、なのわかって……? 何時なのかは最期までわからなかった……けれども、わた、くしは殿下に巡り合えて、愛するリーヴィを授かって、とても幸せ……だか、ら、彼女に後を……」
愚かな子供の俺でも十分過ぎる程に理解が出来た。
そう、母上の命の灯が消えようとしている事を……。
「アリーお願いだ、私を置いて逝かないでくれ!! 私にはアリーがまだま――――⁉」
赤い瞳をした父上の頬を母上はそっと力の入らないだろう手で添え……。
「愛しています。何時、までも……そしてこれ、からも……だから彼女を、ヴィーをお願、いね……」
ゆっくりと父の頬へ添えられていた母上の手が離れていく。
そうしてそれが母上の最期の言葉だった。
母上は大公妃であると共に聖女だった。
然も帝国一、いや大陸でも一、二を争うくらい力のある偉大な聖女だったのだ。
水以外の属性を有し、特に癒しの力は常に一番だと言われていた。
元は侯爵家の令嬢で、幼い頃には婚約者もいたらしいのだがその者の浮気による婚約破棄をされ、以前から母上へ恋情を抱いていた父上の猛烈な、それはもう聖女として赴く先に必ず同行をする立派なストーカー大公と揶揄されるくらいに当時の父上は母上に執着していたらしい。
それは結婚後も、そして俺と言う子供が傍にいても変わらなかったのだが……。
だが母上にしてみれば婚約破棄をした令嬢とレッテルを張られた故に結婚と言う乙女の夢をすっぱりと捨て、一聖女として生涯独身を貫かんとしていた所へのストーカー大公の出現に当時はかなりイライラしていたと、幼い俺に笑って話してくれていた。
逢えば口論、然も母上は一方的に慇懃無礼過ぎる態度で以って父上を叩き伏せていたらしい。
だが結局はそれでも何か二人の間にあったのだろうな。
やがて想いが通じ何とか無事に婚儀を挙げ、その五年後に俺が生まれたのだ。
優しく何時も大らかに笑っていた母は、女性らしい……深窓の令嬢と言うよりは勇ましい戦士の様な女性だった。
呼ばれれば何処へでも無条件に飛んでいく母を、何時も父は心配そうに護衛と称して付き纏っていた。
俺にとって当り前だった幸せは、俺の浅慮で愚かな行動により取り返しのつかない事態を引き起こしてしまった。
なのに父上やバート、ダレンやウィルクス夫人の誰も俺を責めたりはしなかった。
だが逆に何も責められない事の方がより一層俺は自分自身を何処までも追い詰めてしまった。
愚かで無知な子供が一体どれだけの事をしでかした?
俺の愚かな行動で母上を死へと追いやり、偉大な聖女を冥府へ送り出しただけでなく、母を待っているだろう多くの病んでいる者達の希望までも俺は悉く打ち砕いてしまったのだ。
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