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第二章 五日後に何かが起こる?
【24】
しおりを挟む「余りにも不敬だぞウィルクス夫人」
「それは申し訳ありませんと素直に謝ると思うならば大間違いですわ旦那様。確かに当家の家政婦長としてではなく皇族方へお仕えさせて頂く一臣下と致しましても旦那様の仰る通り不敬なのでしょう。しかしそれは時と場合によりますわ」
「何?」
リーヴァイの軽く氷点下を上回り極寒を思わせる――――ではない!!
極寒そのものの視線すらも、ウィルクス夫人はまるで蠅か羽虫を叩き落とすかの如く軽く一瞥しただけでない。
彼女は更にリーヴァイの怒りを煽る様に大仰で深い嘆息をし実に嘆かわしいとばかりの責める様な視線で以って彼へ言い募っていく。
「大公妃様がお隠れあそばされて早二十三年。オードリーは大公妃様の最期の願いを承りリーヴァイ様を我が子……いえそれ以上に大切なる存在として未来の立派な大公殿下として、微力には御座ますが出来得る限りの愛情をもってお育てさせて頂きました」
「何が言いたい」
「えぇ確かに見栄えは大層ご立派で優秀な殿方へとご成長あそばされましたが……」
ここで更にウィルクス夫人は態と見せつける様に、然も思いっきり盛大な溜息を吐けばリーヴァイは返事とばかりにこれまた盛大な舌打ちをした。
「ご夫婦の問題と思い敢えて今まで何も申し上げませんでした。えぇ確かにリーヴァイ様はヴィヴィアン様へ大層ご執心されておいでなのは外野であるわたくし共からも十分過ぎる程に理解出来ましたからね」
「おいっ、誰がヴィーを名前で呼んでよいと――――」
「坊ちゃま!!」
今一度リーヴァイへ向けてウィルクス夫人は居住まいを正した。
「幾ら貴族いえ皇族であられるとはいえ、その前に一人の男性として浮気は男の、貴族の嗜みとやらで我らが女主人であり奥方様のお心を傷つけても夫だから全てを許されるとは……よもや些少なりとも思ってはおられますまいな!!」
「なっ、お、俺が何時と言うか何故ヴィーを傷つけねばならぬのだ!!」
ウィルクス夫人が冷静になれば成程リーヴァイの感情の昂りは加速していく。
「ならばこの者の胎の子は一体どなたのお種なので御座いましょうや。世迷言と思いましたがもしやこの者の申す通り――――」
「っがう、それはない!! 俺の種を宿す相手はあくまでもヴィーただ一人だ。それ以上でも以下もない」
「バークリー医師のお見立てでは間違いなくこの者は懐妊しております。ならばその父親は……」
リーヴァイの間を置かずしての否定に一先ず安堵するウィルクス夫人。
しかしまだここで気を緩める心算は毛頭ない。
「ならば二ヶ月前の事をお尋ね致します。旦那様がアップソン家よりお戻りになられた際お首元に何やらで怪しい赤い御印が、一体アレはどの様なものなのでしょうか。まるで見せつける様に、それはもう厭らしくつけられていたと報告を受けております。ただのお仕事帰りの友人談議にその様なモノは必要ではないと思います。また奥方様はその事へ多分お気づきになられていらっしゃるのかと。ですが貴族のご正室らしくご夫君であられる旦那様の行動へ全くご関心がないとは流石に思いませんが、何分あらゆる事に優れられたる奥方様に御座います故、此度の行動もきっと思うところがおありになったのでしょう」
「ヴィーが……っ、おいバートっ、やはりこの者の四肢を切り落とさねば俺の気が済まぬ!!」
言葉を発するが早いか、既に精神を半分壊れたサブリーナの頭上には風魔法が轟音と共に練られていた。
小指一関節分の小さな球体がリーヴァイの命令を今かと待っている。
見た目は小さいけれども威力は膨大なものだろう。それこそこの大きさだけで公爵邸は半壊すると思われる。彼の魔導力とはそれ程に強くその破壊力は凄まじい。
常のリーヴァイならばヴィヴィアンと言うストッパーが存在している。
だが今彼女はこの場にいない。
「それは建設的な方法では御座いませんでしょう」
やや呆れた口調のバートに対しリーヴァイは益々サブリーナを睨めつけると言うのか、最早その視線だけで彼女の心の臓を貫かんとしていた。
「構わぬ。この者の四肢を切り刻まねばこの俺の気が晴れぬ」
「おや旦那様、やはりあの夜は友人談議と言う名の浮気をなさいましたのでしょうか」
「馬鹿を言うなウィルクス!! あの夜は誓って何も……いや薬を盛られ身体の自由を奪われはしたが、こやつの臭い息と香水のお陰で意識はこれ以上なく冴えていた。だが俺の、今思い出しても寒気がするな。俺の首に汚らわしい舌を這わせたのだ。だからあの時は魔導力でその舌を伸ばし、奴の身体を二十四時間拘束の魔法を掛けておいたのだ」
そうして一歩サブリーナの方へリーヴァイは歩を進めれば、彼女の身体を風魔法がゆっくりと包み込もうとした刹那――――。
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