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第二章  五日後に何かが起こる?

【17】

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 う、嘘ぉっ!?
 あ、あり得ない!!
 えぇっ、絶対にあり得ないですわっ!!

 何故ここにっ、どうしてっ、何でシンディーと旦那様がいるの⁉
 そして同時にハモらないで〰〰〰〰!!
 

 私室から寝室へ繋ぐ扉にはシンディー。
 旦那様の私室より夫婦の寝室への扉には旦那様。
 何故かどちらもとても恐ろしい表情をなさっていますっ。
 私の逃亡計画は失敗――――いいえっ、ここで挫ければこれまでの努力は全て海の藻屑と化してしまいます。

 そうすれば私はまた……後何度、いいえ全てを今回で何としても終わらせる為に私は!!

 私は数m先にいるだろうシンディーの腕を強引に引っ掴めば問答無用で彼女をゴム製の扉の向こう側へ、そうして旦那様が魔導力を行使する前に自身の身をその扉へ投じればです。
 力任せと強引に潜った故に肘や足を強かに打ち付けたにも拘らず、優雅な所作も何もかも全ては高い棚の上へと放り投げ、ゴム製の扉を素早くバックの中へと片しましたわ!!

 こ、これで証拠隠滅……もう簡単に追ってはこられない。


「と、兎に角せ、成功なのかしら」

 突然の事だったので咄嗟に全ての体力を使い切った故なのでしょうね。
 両肩ではぁはぁと荒い呼吸をしておりますが、と、兎に角少し落ち着かなければ……。

 あぁでもですわ。
 出発とはもっと厳かで感慨深いものだと思っていたのですが、いざ行ってみると実に呆気ないものでしたわね。

「お、奥方様……?」

 そこへ状況を今一飲み込めてはいないシンディーが、何とも複雑な表情で私を見つめています。

 大丈夫ですよ。
 貴女の事はこれからちゃんとジプソン子爵家へ連れていきますからね。
 えぇこれで本当に良かったのです。きっとこれから多くの方々にご迷惑をお掛けするからと思い、それぞれ思う方々へお手紙をしたためた際に万が一と思ってシンディーの実家の分も認めておいて助かりました。

 これで彼女が実家へ戻ったとしてもご家族への説明がきちんと出来ると言うものです。
 何と申しましてもこれから未来ある優しい娘なのですもの。


「さぁ貴女をジプソン領まで送っていきますよ」
「嫌です」

 あらまぁどうした事でしょう。
 折角今度こそ幸せになれると言うのに困ったものですね。

「お、奥方様は私を家へ送ったその後は如何なされるのでしょう」

 公爵家へは戻られませんよ……ね。

 こ、凄く怖いですよシンディーっ。
 お願いですからその様に怖い表情かおをしないで下さい。

「ならば私を奥方様の向かわれる場所へお連れ下さいませ。私は奥方様のご存じの通り貴女様の護衛も兼ねております」

「で、でも、それは公爵家との契約で……」

 シンディーの雇用主は旦那様。
 彼女を受け入れれば間違いなくこの場所をそう公爵家へ知らされれば、それこそ元も子もないのです。

「私の主は旦那様ではなく奥方様だけに御座います!! それに外の世界を知らずに生きて来られた奥方様がこれより先お一人で無事に生きていけるとは到底思えません。私はこう見えましてもこれからの暮らしに何かと役立てられると思います」

 それはもう清々しい程に、宮殿にいる騎士達にも引けを取らないくらい眩しくも凛々しいと思ってしまいました。
 だからその余りのカッコよさに思わず私は――――。

「よ、宜しくお願い致します」

 あっさりと陥落してしまいましたの。

「では奥方……」
「もう奥方ではないわ」

「ではヴィヴィ……」
「その名も捨てました。これからはローズと、ただのローズと呼んで下さい」

 私はにっこりと微笑みながら新しい名を告げました。

「では……ろ、ローズさ、参りましょいえローズ参りましょうか」
「はい、行きましょうシンディー」

 若干シンディーの耳が朱に染まっておりましたが、そんな所も含めて可愛らしいのがシンディーなのです。
 こうして私達は再び扉を潜り新たな天地へと向かって出発したのです。
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