【改稿版】旦那様、どうやら御子がおデキになられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉ 

Hinaki

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第二章  五日後に何かが起こる?

【15】

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 シンディーは一気に捲し立てる様に、ここ数日間抱えていた不満をついヴィヴィアンへ吐き出してしまった。
 
 この行為は一介の侍女としても、また貴族令嬢としても簡単に許される事ではない。貴族の令嬢であるシンディー自身誰に言われるまでもなく理解していた。相手は格上の高位の貴族であり加えて皇族。
 だが心より心酔し敬愛するヴィヴィアンに対しこの対応はないだろうと、本来ならば愛人が正妻の居る本宅へ押し入る事なんてあってはならいない事である。
 リーヴァイにはこの際仕事があろうとも関係なく直ぐにでも帰宅をすればだ。脳内花畑な愛人をさっさと外へ放り出した上で正妻であるヴィヴィアンへ事のあらましを説明すると共に土下座で以って謝罪、いやそれこそ首の一つや二つなりとも捧げるべきなのだと、これはシンディーだけでない。この屋敷へ仕える者達は皆そう思っている。

 サブリーナ本人だけではなく、当主であるリーヴァイに対しても怒り狂っていた。

 五日後に帰ると告げたまま今夜で四日目、未だリーヴァイからの説明責任は何一つ果たされてはいない。
 なのに目の前のヴィヴィアンは何時も通りほんわかと、穏やかで優しいオーラを纏ったまま愛人へのご機嫌伺いへ来ていると言う事実にシンディーはショックを受け、生まれて初めて深窓の令嬢らしく眩暈を起こしそのまま意識を失いかけたのである。
 実際に意識を失ってはいないし、それよりもサブリーナとリーヴァイへの怒りで見えない尻尾が床をバンバンと勢いよく叩きつけていたのだが……。

 そんな鬼神と化したシンディーに近づく事の出来ないジェーンとメアリーは兎も角、ヴィヴィアンは相変わらず通常運転の笑顔で以って――――。

「まぁシンディーってばその様に怒らないで。ほらほら折角の美人が台無しよ。ふふ大丈夫よ。ね、ちゃんとここにあなた達三人分のお菓子も用意してあるわ。だから機嫌を直して頂戴。ね、あなたは怒った表情よりも笑顔がとても似合うのですもの。ところでサブリーナ嬢の体調はどうなのかしら」

 全く聞いていなかったりする。
 シンディーは力なく両肩をがっくしと落としつつもその反面、これこそが自分達の敬愛するヴィヴィアンなのだと納得もしていた。

「……サブリーナ嬢はバークリー医師によって暫くお休み中です」
「まぁそれではお食事は? 何も食べなければお胎の子によくはないでしょう」
「それはご安心を、バークリー医師より栄養剤も入れてあるそうなので今は母子共に健やからしいです」

 確かに甲高い声で毎日叫び倒しているよりも胎の子にとっては今の間だけでも健やかに育つだろうと、シンディーは心の中で思っていた。

「先生の指示ならば仕方がないわね。ではもし目覚められたら……ね。これをお渡ししてくれるかしら」

「はい、確かに承りまして御座います」
「有難うシンディー、本当に何時も……今までとても善くしてくれてわたくしはとても幸せだったわ。本当にあなた達には感謝しかないもの」

「奥方……様?」

 怪訝そうなシンディーの視線にヴィヴィアンは慌てた素振りと慣れない作り笑いでその場を何とか取り繕う。

「あ、い、いいえな、何でもないの。えぇ何でもないのですよ。ただね、何時もお礼を言いそびれてしまって……」
「奥方様は他の誰よりも十分礼儀正しい御方に御座います」
「有難うシンディーその言葉だけで十分です。それでは部屋へ戻るわね」
「お部屋までお送り致します」

 何故か急に嫌な予感めいたものを感じたシンディーから咄嗟に言葉が飛び出してしまったけれども……。

「駄目よシンディー、今はわたくしの専従侍女レディーズ・メイドではないでしょ。眠っていらしてもサブリーナ嬢のお傍にいて差し上げて。そ、それがあなたの為だから……それに邸内で迷子になる程、わたくしは方向音痴ではありませんよ」

 そう言って何時もより一層朗らかな笑みを湛えたまま、ヴィヴィアンは静かに本館の方へ向かって歩いて行った。
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