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第二章 五日後に何かが起こる?
【4】
しおりを挟む「遅くなってごめんなさいねダレン、それからウィルクス夫人も」
ヴィヴィアンは自身の執務室へ到着すると既に室内で待っていただろう二人へ謝罪をする。
「いいえ何時もの事に御座いますが我々は一介の使用人に過ぎないのです。どうか当主夫人であられる奥方様がその様に軽々しく謝罪をしないで下さいませ」
苦言を呈するのは勿論彼女自身れっきとした貴族でもあるウィルクス夫人。
その表情は実に複雑怪奇……である。
だがヴィヴィアンはそんな事に我関せずと言った具合に持論を述べる。
「あらウィルクス夫人、確かに貴女の言う事は勿論正しい事ですわ。でもそれはあくまでもわたくし達の生きる貴族社会においては……ね。でもわたくしは一貴族としてでなく、人間としてごく当たり前の事をしているのですよ」
ふふ、と茶目っ気たっぷりな表情のままヴィヴィアンはそう告げた後柔らかく微笑んで見せる。
「奥方様……」
「何かをして貰ったり、こうして忙しいのにも拘らず待っていてくれている事に対し相手へ礼を尽くすのは、貴族や平民、また雇用主や雇用される者なんて言う立場に関係はないとわたくしは考えています。それにね、世の中に当然――――と言うモノは存在しないのですよ」
特にこの世界は色々とややこしいのですけれどね。
「さぁ時間は有限ですよ。早速今日のお仕事をしましょうか」
「「はい、奥方様」」
まだまだ思う所はあるもののダレンと特にウィルクス夫人は素早く気持ちを切り替えれば、通常の仕事モードへと戻っていく。
こう言う所は本当にプロなのだなぁと、ヴィヴィアンは思わず二人の様子に感服しながらも彼女は前回招かれたお茶会へのお礼状を一つ一つ丁寧に書いていく。
カリカリと万年筆でカードを書き綴る音と時を刻む針の音のみしか存在しない静かな空間で、ウィルクス夫人はふと思う。
貴族、然も皇族と言う尊い立場へヴィヴィアンは座していると言うのに、自分達上級使用人のみならず彼女は身分に関係なく平民の、それこそ下級使用人だけでもないのだ。
偶にお忍びで市井へと赴けば極々普通に平民達と言葉を交わし当たり前の様に礼を言う。
一般的な貴族ならば決してあり得ない様な珍妙な行動を、ヴィヴィアンはそれを自然な形でやってのけてみせる。
普通ならば到底受け入れ難いと誰しもそう思うし戸惑うだろう。
特に権力に拘る貴族と言う生き物等は……。
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