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第二部  第三章  それぞれの真実と闇

27 あの日の真実  ダーリアside Ⅲ

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「先日の朔の夜にエネーアは予知したのだ」
「一体どの様な……」

 早く先へ進めて下さいませんか。

 老い先短い私が悔いのない様にサヴァーノ、ここは洗い浚いぶちまけて下さいませ。


 私は出来得る限り息を潜めつつも耳だけは、そう決してサヴァーノ達の会話を一言一句聞き漏らすまじとしておりましたの。

 なのに一向に話はと申しますか、何時も煮え切らないうじうじな性格のサヴァーノらしく本題に入るまでに約一時間は待ちましたわよ。

 そうしてようやくでしたわ。

 私の聞きたかった本題とやらが始まったのは……。



「間もなく過去が未来をその黒き心で以って覆い隠すだろう。だがやがて時は巡り運命は再び未来の許へと星々はつどう。未来の放つ光の下で世界は無に帰しそして母となり新たなる世界が生み出されるであろう……これがエネーアの予知だ」

「過去が未来を黒き心で覆い隠す……とはどういう意味なのでしょう。そして時が巡りとは我らは、バルディーニはどうなるのですかサヴァーノ」

「詳しい事はまだ何も……だ。エネーアの予知を共に聞いたガイオも意味が理解出来ている様には思えなかった。だがな我は過去はよくわからぬが未来……即ち未来こそはローザだと思う」
「ローザが……」

「ああ何時の事かわからぬがローザは再び彼女の許へ集う星々は神々ではないかと推察した」
「星々が神……」

「ローザの許へ我ら全ての神々が集いし時彼女は混沌の母となりてこの世界を無に帰しそうして新たなる世界の母となる!! その時こそローザの夫である我は彼女と共に今度こそ神々の頂点となる」

「ガイオも同じくその予知を聞いているのでしょう?」
「ああだがまだ奴には理解出来ておらぬ事もあるのだ。エネーアが最後に告げし一節……美しき未来を全て手に入れし者こそは全ての力を未来より託されれば世界を導く者とならん……だ」

「……つまり母となりしローザを手に入れし者こそが神々の頂点!?」
「そうだジュスティアノよ。ローザを確実にだ。あの穢れのない心と身体を我のものとし名実共に彼女の夫となりし者こそ世界が手に入るのだ!!」

 ジュスティアノは微笑みそしてサヴァーノの足元へと跪いたのです。

「サヴァーノ様こそ我が唯一の指導者であり神。事が上手くいきますよう微力には御座いますが私もこれまで以上に精一杯尽力致します」
「ああこれまで以上の働きを期待するぞジュスティアノよ。初めの一節の意味は未だ分からぬがだ。取り敢えずはローザの心をこちらへ向けなければいけまいな」

「ええそれが先決でしょう」

「だがなその前にこの花園に不必要な徒花あだばなは直ぐにでも選定しなければなるまい。そうであろうダーリアよ」

「――――っっ⁉」


 鬱葱と生い茂れば私の身体を隠してくれていたであろう美しき花々達はです。
 サヴァーノの一声によって左右へ大きく分かたれれば、私の身はサヴァーノ達へ晒される事となりました。

 ええこの子達に罪はありません。

 何故なら私とサヴァーノの神格は余りにも違いますもの。
 
 強い者の力には抗えない。

 ただそれだけ。

 心の中では悲しんではいてくれていてもです。

 
「お久しぶりですサヴァーノ、そしてジュスティアノ」

 
 本音を言えば逃げ出せるものならば逃げ出したい。
 
 足……だけではなくサヴァーノの覇気に直接晒されているのです。

 全身が竦み上がるだけでなく声も震えてしまいそうです。

 今ここで気絶をしないだけでも自分は偉いと褒めてもあげたかった。

 
 伊達や酔狂で最高神と名乗っていないだけはあると思い知らされましたわ。

 それと同時に私の命も残り僅かな事も……。


「花を愛でるのではなく誰の、ガイオの手先となったのか?」
「いいえただ私はこの場所で花を愛でていただけです。貴方方の話は偶然ですわ」

「ほぉか。確かに偶然なのやもしれぬ。だがエネーアの予知は我とガイオのみしか聞く事を許されてはおらぬ」
「それは知らぬ事とはいえ失礼致しましたわ」

 僅かに可能性があるならばこの場より逃げ出したい!!

「我の見解迄聞かれていたのだからな」

 まるで獲物を見定め舌なめずりをする野獣そのもの。

「然もそなたは我ではなくガイオが生みし女神」
「子は親を選べぬもの。ですが与えられし職責は全うしておりますわ」

「子は親を選べぬ……か。職責の全う云々は少々サボりがちな我を咎めておるのか?」
「い、いえ決してその様な事はありません。ただ私は……」

 拙い、これはサヴァーノの地雷を踏んでしまったかしら。

「……まあよい。我は慈悲深き神故な」
「サヴァーノ宜しいのですか?」
「ああダーリアよ、そなたにもまだ使い道はある」


 使い道?

 はっきりと申し上げれば貴方に使われたくはありませんけれど。

 
 でも今はこの場より少しでも遠く逃げなければ!!


「では御機嫌ようサヴァーノ」
「ああ……」

 私は出来得る限り冷静且つスピーディーにこの場より逃げ出したのですが――――⁉


「ダーリア今決めたぞ。そなたの使い道を……」


 それが女神ダーリアとしての最期の記憶となりました。
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