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第二部  第三章  それぞれの真実と闇

3  冥界へ

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 メルチェーデはあっさりと肉体を捨てれば光り輝く魂となった。


 その輝きはまさに神々しく神であるもの。


 メルチェーデは身軽になれば猛スピードで、最早ローザの事以外何も考えずまた恐れすら抱く事もなく地下世界である冥界へと飛翔する。

 そうして初めて訪れる冥界を見て思う。


 地上とは比べようもない程に広大且つ荒涼たる大地とは呼べない不思議な場所。
 
 一条の光すらも射す事のない完全なる闇に覆われればだ。

 何処が大地で、どちらが天上なのかさえもわからない。

 ただあるのは漆黒よりも尚暗い無限に広がる闇の空間。
 

 その闇の空間でぽつりぽつりと魔獣が視界に入る。

 まだ向こう側の上部には何かへ引き寄せられていく亡者の姿を見受けられた。

 だがはたして彼らの立っているであろう場所が冥界の大地なのかどうかなんてメルチェーデにはわからない。

 何故なら彼らは信じられない事に全方位上で普通に立って歩いているのだから……。


 でもメルチェーデから見れば確かに彼らは彼ら自身が認知しているだろう大地へ足をつけて行動しているのだ。

 例えばメルチェーデが大地へ足を着ければだ。

 向こう側は彼女にとって左側を足に着けたり時には座っていや、上や天上から斜め上へと足を着けて彼らは普通に移動をしているのである。


 そうここは冥界と言う名の何でもありの闇のパラレルワールド。


 不思議な事が不思議でない世界。

 普通が普通ではない。

 可笑しいと思うだろう世間一般的なの概念が一切通じない謎多き世界。



『視覚で騙されるな。心眼を使え。メルチェーデ……お前ならば可能であろう』

 初めての事に些かパニック寸前となるメルチェーデの頭へ直接語り掛けてきた声――――。


「ガイオっ、貴方なのか⁉」

 メルチェーデはその声の主を探せば周囲をぐるりと見回してみる。

 だが周りは何処も漆黒の闇。

 魔獣や亡者の存在は普通に確認が出来てもそこにガイオの姿を見出す事は出来ない。


 空耳――――なのかとも思った。

 何故なら今現在ガイオは地上で、バルディーニの楽園で御力の暴走真っ最中なのである。

 恐らく既にメルチェーデ自身の肉体も滅んでいるだろう。

 ローザを失ったガイオの計り知れない悲しみが彼の正気を失わせていたのだ。

 だからこそこの場にガイオがいるとは到底考えられないと言うのに……。


『……安心しろ、これは俺の意識の一部。とは言え俺自身御力の全てはほぼ全てはローザを失ってしまった悲しみと怒りに憑りつかれた本体に持っていかれてしまったのだがな』


 冷静な声で語り掛けてくるのはメルチェーデの知るガイオのものであった。


「では貴方はガイオの精神体なのか」

『精神……若しくは良心とも言う。またはガイオとして自由となる最後の御力。それ故ガイオの、俺は最期の瞬間にガイオによって託されし存在。ガイオより託されし残る御力の全てを遣いメルチェーデ、そなたと共にローザの魂に掛けられし呪いを解く一助となる為にここへ来た』
「それは有り難い。ここは貴方が統べる冥界だからな。私にはこの世界がさっぱりわからん。それにローザが向かう闇の沼の場所も……。だからガイオ、貴方が来てくれてとても嬉しい」

 それは今までにないメルチェーデの素直な気持ちだった。

 昔の自分には到底あり得ない感情であり気持ち。

 そう全てはローザ、彼女によってもたらされし恩恵。

『ではこちらだ。あの向こうの山脈の果てに彼女の魂は向かっている。今ならばまだ追いつけるだろう』
 
 そう言い終えるとガイオは早々にそちらの方へと向かっていき、当然メルチェーデもその後を追い掛けるのだが……。


 山脈の果て?
 抑々そもそも山脈の存在自体と言うか真っ暗でほぼほぼ何も見えないのだが――――。


と申したであろう。闇とは全てを惑わせしもの。女神たるそなたならば心眼くらい使いこなせるであろう』

 メルチェーデはその瞬間ムッとする。

 苛立ちはしないけれどもだが完全にガイオの精神体に小馬鹿にされたと言うか、いや正確には子供扱いなのだろう。

 その事へ腹に据えかねはするものの、だからと言ってこのやり取りは決して嫌ではない。

「しかし子供扱いだけはやめて貰いたいっ」

『ふ、仕方ないであろう。何と申してもそなたらは俺とサヴァーノより生み出されし者。言って見れば……だな』


 父親……。

 ああサヴァーノにそう告げられる度に嫌で嫌で仕方がなかった言葉。

 一種の呪いの様な言霊縛りに掛けられているかと何度思った事だろう。

 でもガイオに言われれば不思議と、そう不思議にもストンと納得してしまうのだ。
 

 正確には――――なのだがな。


 そうして二人は軽口を叩きながらもスピードを上げれば向こうに、ほんの微かだが強烈で鮮烈な光を放つ魂を発見する。

『ローザだ。彼女の波動が……遠く離れたここにまで伝わってくる』

 震える声で呟くガイオ。
 
「ああようやくだっ。漸く彼女を見つけられたっ!!」
『もう少しスピードを上げるぞっ、沼へ入ってしまうまでにローザの魂を繋がねば全てが無に帰すからな!!』
「当たり前だっ、その為に私はここまで来たのだからな!!」


 二人は更にスピードを上げればただ深淵へと堕ちていくだろう他のモノとは比較にならない輝きを放つローザの魂を追っていくのであった。
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