169 / 197
第二部 第三章 それぞれの真実と闇
3 冥界へ
しおりを挟むメルチェーデはあっさりと肉体を捨てれば光り輝く魂となった。
その輝きはまさに神々しく神であるもの。
メルチェーデは身軽になれば猛スピードで、最早ローザの事以外何も考えずまた恐れすら抱く事もなく地下世界である冥界へと飛翔する。
そうして初めて訪れる冥界を見て思う。
地上とは比べようもない程に広大且つ荒涼たる大地とは呼べない不思議な場所。
一条の光すらも射す事のない完全なる闇に覆われればだ。
何処が大地で、どちらが天上なのかさえもわからない。
ただあるのは漆黒よりも尚暗い無限に広がる闇の空間。
その闇の空間でぽつりぽつりと魔獣が視界に入る。
まだ向こう側の上部には何かへ引き寄せられていく亡者の姿を見受けられた。
だがはたして彼らの立っているであろう場所が冥界の大地なのかどうかなんてメルチェーデにはわからない。
何故なら彼らは信じられない事に全方位上で普通に立って歩いているのだから……。
でもメルチェーデから見れば確かに彼らは彼ら自身が認知しているだろう大地へ足をつけて行動しているのだ。
例えばメルチェーデが大地へ足を着ければだ。
向こう側は彼女にとって左側を足に着けたり時には座っていや、上や天上から斜め上へと足を着けて彼らは普通に移動をしているのである。
そうここは冥界と言う名の何でもありの闇のパラレルワールド。
不思議な事が不思議でない世界。
普通が普通ではない。
可笑しいと思うだろう世間一般的なの概念が一切通じない謎多き世界。
『視覚で騙されるな。心眼を使え。メルチェーデ……お前ならば可能であろう』
初めての事に些かパニック寸前となるメルチェーデの頭へ直接語り掛けてきた声――――。
「ガイオっ、貴方なのか⁉」
メルチェーデはその声の主を探せば周囲をぐるりと見回してみる。
だが周りは何処も漆黒の闇。
魔獣や亡者の存在は普通に確認が出来てもそこにガイオの姿を見出す事は出来ない。
空耳――――なのかとも思った。
何故なら今現在ガイオは地上で、バルディーニの楽園で御力の暴走真っ最中なのである。
恐らく既にメルチェーデ自身の肉体も滅んでいるだろう。
ローザを失ったガイオの計り知れない悲しみが彼の正気を失わせていたのだ。
だからこそこの場にガイオがいるとは到底考えられないと言うのに……。
『……安心しろ、これは俺の意識の一部。とは言え俺自身御力の全てはほぼ全てはローザを失ってしまった悲しみと怒りに憑りつかれた本体に持っていかれてしまったのだがな』
冷静な声で語り掛けてくるのはメルチェーデの知るガイオのものであった。
「では貴方はガイオの精神体なのか」
『精神……若しくは良心とも言う。またはガイオとして自由となる最後の御力。それ故ガイオの、俺は最期の瞬間にガイオによって託されし存在。ガイオより託されし残る御力の全てを遣いメルチェーデ、そなたと共にローザの魂に掛けられし呪いを解く一助となる為にここへ来た』
「それは有り難い。ここは貴方が統べる冥界だからな。私にはこの世界がさっぱりわからん。それにローザが向かう闇の沼の場所も……。だからガイオ、貴方が来てくれてとても嬉しい」
それは今までにないメルチェーデの素直な気持ちだった。
昔の自分には到底あり得ない感情であり気持ち。
そう全てはローザ、彼女によって齎されし恩恵。
『ではこちらだ。あの向こうの山脈の果てに彼女の魂は向かっている。今ならばまだ追いつけるだろう』
そう言い終えるとガイオは早々にそちらの方へと向かっていき、当然メルチェーデもその後を追い掛けるのだが……。
山脈の果て?
抑々山脈の存在自体と言うか真っ暗でほぼほぼ何も見えないのだが――――。
『心眼で視ろと申したであろう。闇とは全てを惑わせしもの。女神たるそなたならば心眼くらい使いこなせるであろう』
メルチェーデはその瞬間ムッとする。
苛立ちはしないけれどもだが完全にガイオの精神体に小馬鹿にされたと言うか、いや正確には子供扱いなのだろう。
その事へ腹に据えかねはするものの、だからと言ってこのやり取りは決して嫌ではない。
「しかし子供扱いだけはやめて貰いたいっ」
『ふ、仕方ないであろう。何と申してもそなたらは俺とサヴァーノより生み出されし者。言って見れば父親……だな』
父親……。
ああサヴァーノにそう告げられる度に嫌で嫌で仕方がなかった言葉。
一種の呪いの様な言霊縛りに掛けられているかと何度思った事だろう。
でもガイオに言われれば不思議と、そう不思議にもストンと納得してしまうのだ。
正確には伯父――――なのだがな。
そうして二人は軽口を叩きながらもスピードを上げれば向こうに、ほんの微かだが強烈で鮮烈な光を放つ魂を発見する。
『ローザだ。彼女の波動が……遠く離れたここにまで伝わってくる』
震える声で呟くガイオ。
「ああ漸くだっ。漸く彼女を見つけられたっ!!」
『もう少しスピードを上げるぞっ、沼へ入ってしまうまでにローザの魂を繋がねば全てが無に帰すからな!!』
「当たり前だっ、その為に私はここまで来たのだからな!!」
二人は更にスピードを上げればただ深淵へと堕ちていくだろう他の魂とは比較にならない輝きを放つローザの魂を追っていくのであった。
1
お気に入りに追加
3,454
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
空間魔法って実は凄いんです
真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる