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第二部  第二章  泡沫の夢と隠された真実

25  バルディーニの終焉  Ⅲ

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 様々なる想いが交錯した瞬間。

 純粋過ぎるが故に憎悪と悲しみに支配され祝福に満ちた光の中へいる事も出来ず、だからと言って神堕ちをした訳でもない真の闇に染まりし神――――エレウテリオが祝宴へと姿を現したのは……。


 右手には当然の様にいや、最早彼の身体の一部と化したかの様に鈍色の光を放つ神殺しの剣がしっかりと握られていた。

 
 最初は誰も……いや高位の神格を持つ十二神達はエレウテリオの、以前の彼とは全く違うその異形の姿と様相に気が付いていた。

 だが同時にエレウテリオの右手に握られしものの正体は兎も角だ。

 神殺しの剣の存在をまだ知らされてはいない多くの神々達はそのたとえ様もなく恐ろしい力を周囲へ放っている存在に目をと言わず心が奪われていた。

 またそれはどの神々達もそれは決して安全なるモノではないと言う事をひしひしと肌より伝わりもした。


 だから誰一人としてエレウテリオを凝視するものの現実には彼の行動を止められないでいた。


 そして勿論十二神の中には最高神であるサヴァーノ。

 その妻神であるローザ。

 地上半分と冥界を統べる闇の神ガイオ。

 創始の女神であるインノチェンツァの四人は当然の事ながら気がついていた?


 いや違う。
 確かに初めに異変へ気が付いたのはローザとガイオなのだろうがしかしである。
 サヴァーノとインノチェンツァの二人はエレウテリオを態々わざわざこの場へと召喚した側なのだ。


 祝祭に喜び沸き立つこの場へ――――。


 そうしてサヴァーノとインノチェンツァの両名は互いに狙うべき相手を、正気を失いつつあるエレウテリオへ秘かに強固な幻惑術を掛けていた。


 勿論サヴァーノはガイオへ。
 インノチェンツァはローザを――――。


 エレウテリオが最も憎悪し続ける熾火の神アーマトの姿をそれぞれの対象者となる二人へ重ねてだ。
 

 問題はサヴァーノとインノチェンツァ、どちらの力がよりエレウテリオへ幻惑術を掛けられるかであった。


 だがそれは……多分最初から勝敗はわかり過ぎていたのかもしれない。


 最高神でありガイオに次ぐ御力を有するサヴァーノ。

 一方底を突いた創始の女神とは名ばかりの、常に飢餓状態で神々の御力を吸い上げる為だけに生きているインノチェンツァ。

 そしてその歴然とした力の差さえインノチェンツァ本人は愚かにも全く気付かなかったのである。

 また当然の様にエレウテリオはサヴァーノより映し出されたアーマトの幻影へ導かれる様に、今まで溜め込んできた憎悪や悲しみ、怒りそしてダーリアへの気づいてこれなかった切なる想いの全てを一気に増長させればだ。

 轟々と轟音を立てて漆黒のオーラを纏えば憎しみに満ちた形相のままガイオへと、そして神殺しの剣は何も対象者の身体を貫かなくてもいい。


 エレウテリオの渾身の作である剣は、ただ一太刀だけ浴びせる事が出来ればそれだけで剣自身の持つ力と呪いは予定通り発動する。


 しかし今のエレウテリオに平常心なんてものは一欠けらも存在はしない。

 今彼の心にあるのは彼に向けてくれていただろうダーリアの笑顔と儚くも封じられてしまった彼女の面影のみ。

 またエレウテリオの愛するダーリアの死を悼む様にかつて様々な色で咲き誇っていたダリアの花は、封じられた女神を想い何時の頃だろうかその色を失ってしまった。

 哀れで可哀想な色を亡くしたの花々が復讐の神と化したエレウテリオの心の中にも咲いていたのである。

 彼へ何かを訴えかける様に……。


 でも正気を失ったエレウテリオは全く気付く筈もなく、怒りの矛先であるガイオアーマトへと一直線に駆け出せばそして思い存分気が晴れるまで対象者の身体を何十何百と刺し貫けばいい!!


 だがガイオとて突進してくるだろうエレウテリオにむざむざと刺される訳にはいかない。

 何と言ってもガイオ自身には全く身に覚えがないどころか、エレウテリオに恨まれる謂れは何処にもないと言うのか彼とは長年の友なのである。

 友であるエレウテリオを力づくで封じる訳にもいかない。

 さりとていきなり襲ってくるエレウテリオ先ずはある程度の力だけを封じれば何故自分を襲うのかについてじっくりと彼の話を聞けばいいとそう判断をしたのだ。


 それが後になって正しかったのかはたまた正しくはなかったのかは誰にも、この時のガイオもエレウテリオ自身にもわからない。


 ただガイオへ後少しと言う所にいたエレウテリオの前へ、また迎え撃とうとするガイオとの僅かに出来た刹那の間に一瞬ひらひらと雪の様に舞っていたのは緋色の花弁とどん――――と言う鈍い衝撃音と言うより振動が、ガイオの身体へ緩やかに伝わっていく。

 それと同時に咄嗟に抱え込んだものよりはぬるりと生暖かいものが、ガイオの手や腕を通して床へとぴちゃんぴちゃんと水音を立ててしとどに落ちていくのであった。
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