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第二部  第一章  囚われのヴィヴィアン

26  囚われの女神

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 メルチェーデのその決断とは……。


「ダレンさん今からを放り出しますから良ければ一応受け取って下さい。そしてついでにさっさと結界内へ入れて下さい」

「は? 一体何をメルチェーデっておいっ⁉」

 その清々しい過ぎる行動にダレンは慌てて地上を蹴り上げればだ。

 メルチェーデによって放り出されたリーヴァイを即座に受け取るべく態勢を整える。


 どさっ!!


「ガイオっ、全く無茶をなさいますな」

「…………」

「ダレンさあこちらへ、早くガイオを結界内へ!!」
「とはいえこの結界も余り持ちませんねぇ」
「ですがこの程度で泣き言等許されませんよダレン――――いいえ鍛冶の神エレウテリオ」
「そうですね。この程度では我が罪を償えたとも思いはしませんよ。アルテーア」


 アルテーアと呼ばれしウィルクス夫人は銀色に輝く髪と薄氷の様な温度を全く感じさせない美しい青銀の瞳はそのままだが、名を呼ばれたと同時にかっちりと結い上げられていた銀色の髪は腰まで長く波打てばである。

 瞳は同じだがその容姿は10代の少女の様なあどけなさを残してはいるものの、到底人間とは思えない程の神々しさを更に纏った美しい乙女へと変化を遂げていた。

「あら、ダレンエレウテリオはそのままなの?」

 きょとんと不思議そうな面持ちでアルテーアが告げれば彼は少し苦笑気味に応えるのであった。

ダレンこちらの姿に愛着がありましてね」
「まあそこは相変わらず変わらないわね」
「そういう貴女こそ……」

 二人は互いに微笑み合ったその刹那――――あり得ない程の緊張が、大気がピリピリと震えると同時に肌に刺さる様な痛みを告げた。

『――――ふむ、まだ完全なる覚醒には程遠いか。まあよかろう、今はまだその時ではない。さあ我の許へ来るがよい。我が生みし女神にして我が半身の女神そして我の唯一となるローザ・アウレリアーナよ』


 黒闇こくあんの闇の中へ一条の……なんてものではない。


 光等皆無に等しい黒闇の闇の中より突如鮮烈な光が射し込めばである。

 それまでに空全体を覆っていた闇は一瞬で霧散した。


 その苛烈過ぎる光と共に現れたのは一人の男。


 赤毛交じりの金色ストロベリーブロンドの髪を翻せば群青色の瞳に逞しさを強調させる褐色の肌。

 野性味のあるリーヴァイ級に容姿の整った、更にそこへ神々しさを加味された完璧な美と呼ぶべき青年。


「さ、最高神サヴァーノ・ボナヴェントゥーラ……⁉」

 少女へと変化したウィルクス夫人が口惜しそうにその名を呟く。
 
『ほぅ久しゅうある女神アルテーアよ。まさかそなたとこの様に再会するとは……な』

 実に興味深げだと言わんばかりに最高神は地上にいる彼女を見下ろした。

『ふ、アレにやられたか』


 アルテーアとダレンが必死に護り隠そうとしているリーヴァイを最高神は一瞬目見咎めるけれども――――。


『まあ良い。そのなりでは何が出来ると言う訳でもなかろう。此度の我の目的は無事に果たされたのだからな』

 そうして最高神は目に見えぬ力で以って感情を暴走させていたローザの意識を封じれば、宙を浮かんだまま意識を失った彼女を連れて何処へともなく姿を消していく。

「待てっ、ローザ様の向かう先にはにはこの私がっ!!」

 陽炎の様に消えゆく最高神とローザの後を追いメルチェーデもまたその先へと姿を消していく。
 
「「メルチェーデっ、全く無茶ばかりを!!」」

 ダレン達は消えてしまったメルチェーデに向けて声を発するけれども彼女へ聞こえる筈もない。


「兎に角このままと言う訳には参りませんね。私達も直ぐにでも態勢を整えましょう」
「そうですね。先ずは旦那様の、ガイオ・ヴィルジーリオの傷を回復しそれからでしょう」

「ええ、なんとしてもローザを元のヴィヴィアン様へとお戻ししなければいけません。そうでなければ余りにも……」

「大丈夫…・・・とは流石に楽観的な事は申せませんがそれでもです。我らは、少なくとも私は過去の過ちをこの未来の世界には何があろうとも負わせる訳には参りません。私のこれまでの時間は全て過去の贖罪の為にだけにあるのですから……」

「ダレ、いえエレウテリオ貴方はもう十分に償っていますよ」

 エレウテリオは泣きそうな表情のまま同志でもあるアルテーアを静かに見つめる。

「そうであれば嬉しいのですが、まだまだ道半ば……ですよ」

 そう言われるとアルテーア自身も小さく微笑みそして――――。

「貴方の言う通りね。過去の遺物である私達は未来ある人の子へ無事にバトンを渡さなければなりませんね」

 それから間もなくダレンとウィルクス夫人は意識を失ったリーヴァイと共に地上より静かに姿を消した。
 




 帝国のある北のモンクリーフ大陸はエアルドレッド帝国帝都を中心として壊滅的な被害を被ってしまった。

 だが負傷者は多かったのだが奇跡にも何故か死者はほんの僅かであった。

 帝国とその周辺国家また隣接する島々並びに東に位置するアンテス大陸や西に位置するラモワン大陸にも著しく被害が出たらしいけれどもである。

 どの国々もそれを予見していたかの様に人々の避難は勧められると同時に光が射す頃には復興へ直ぐに着手し始めていたのであった。


 しかし多くの者は甚大なる災害としか知らされてはおらず、また真実を知る者はごくほんの僅か……然もそれぞれの国家中枢を担う者のみだけであった。
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