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第二部 第一章 囚われのヴィヴィアン
18 断罪 女は自ら作りし穴へと堕ちる Ⅱ
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再び不気味に響く扉の軋む音。
だがその扉は開けられた様子もなければ当然向こう側にあるだろう一条の光すら射し込む気配は全くなく……。
『至高の女神を豚女と呼びし女はお前か?』
突如何処からともなく、いや何処からではなくそれはベラの頭へ直接響く様に語り掛けられた。
「ひぃぃぃぃぃぃ⁉」
『答えろ!! お前の様な下等な生き物が我らが女神を愚弄したと言うのか』
『ほほ、返事も出来ぬか。股も緩ければ頭も相当緩い生き物だな。いや、もう既に生きる価値もないだろう』
「は、あ、あ、あっ」
『あの御方より好きにして良いとの沙汰も下ったのだ』
『ああだがしかし我は腹を下すのは……』
『それはそうか。では更に下層の者達へ。あれらはほんに何でも文句も言わずに喰ろうてくれるからの』
『おおそれは妙案じゃ。ほんに妙案であるな。さすれば何もかも跡形もなくそれは綺麗に喰ろうてくれるよの』
「あ、あ、あ……」
一体何を言っているのとベラは大声で叫びたかった。
いや叫ぶ前に何よりもだ。
この場より逃げ出さなければいけないと、彼女の危機回避能力がっ、本能がそれを彼女へ知らせていたのにも拘らずである。
突如頭へ直接響く様な声は複数で、そのどの声も物語で聞いた様な闇の世界をずるずると這い回ると言うのだろうか。
人間の発する声よりも低く不気味過ぎる声達に、流石のベラ自身身体と言わず指先一本動かす事が出来ないだけではない。
言葉を発する事も出来ずにただただその場で腰を抜かして座り込むだけだった。
あ、アタシは一体何をしたって言うのっ!!
アタシは何一つ間違ってはいない筈だよっ。
だって親父さんもっ、あの男爵だって内緒にしていた筈なのに何故か今日になって行き成り――――。
『可愛いベラや。頑張って公爵に取り入るがいい。そうして公爵夫人を見事追い出せばわしはお前の好きなドレスや宝石を幾らでも買ってやるぞ』
そ、そうよっ、だ、だからアタシはっ、一生遊んで楽しく暮らせられるって言うからこの屋敷へ乗り込んできたんだ!!
そ、それに実際公爵に会えば一度は抱かれてみたくなるくらいにいい男だったんだもん。
女ならいい男を前にして指を銜えて黙っていられるかって言うんだよっ。
な、なのにあのイケメンは豚女しか見て居な――――っ!!
『馬鹿じゃのう、ほんに馬鹿な生き物じゃ。その一言であの御方の怒りを買ったのじゃな』
『ならば致し方なかろう。皆良いな、この者を下層へ引き立てようぞ』
『『『おお直ぐにそうしよう、そうしよう。全てはあの御方と我らが至高の女神の御為だけに……』』』
その言葉がベラに届いた瞬間彼女へ何処からともなく蔦の様な、然もである。
まるで生きているかの様に自らの意思で以ってぐるぐると蔦はベラの身体へと何本もきつく巻き付いていく。
「あ、嫌っ、や、やめてっ、放しぃぃぃぃぃ――――ぐぼごぼぼ、ぼごふぉ……」
完全に蔦へ巻き付かれると同時にベラの気配はサロンよりスーッと静かに消え失せていく。
「……やれやれこれで漸く何時もの静けさを取り戻せましたね」
音もなく扉が開かれれば深い溜息と共にダレンが入ってきた。
『ほんに後始末係も辛いものよ』
「申し訳ないですね。ですが今あの御方は我らの女神より離れられる事が出来ませぬ故に、どうか古き馴染みとしてご容赦を……」
ダレンは穏やかな笑みを闇の中へと向ける。
『そう、じゃな。時が今再び巡り回り始めたのじゃからの。我らやお主が如何様に心を痛めたとしてもあの御方の比ではあるまい』
「そう、ですね。昔も今も私達はただ事の成り行きを静かに見守るだけしか出来ません」
『そこでじゃ、陽の下におれるお主に頼みがある』
「何をでしょう」
『我らの分もお二人へ身命を賭して仕えてくれんかの』
「――――勿論ですよ。何を今更です。貴方方と私は同士でしょう」
ダレンは朗らかに笑ってそう告げる。
闇の中の者は安堵した面持ちで頷いた様にダレンには見えたらしい。
『……ではまた会おうぞ』
「ええ、時が来れば――――ですよ」
暫しの別れを告げようとしたダレンへ思いが一つ託される。
『出来ればのぉ。若くて活きがいいのは嬉しいが、もう少し腹を下さぬ程度のモノを提供してはくれないかの』
「そこはまあ、相談……してみましょう」
苦笑しつつもダレンはそう返答をした。
そう、敵の良し悪しはこちらでは決められないとでも言う様に……。
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