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第一部  第三章  それぞれの闇と求める希望の光

19  逃げられない⁉  ヴィヴィアンSide Ⅳ

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 その後も皇家だけに受け継がれているだろう神秘的な緋色の瞳にキラキラと光り輝く涙をこれでもかと滲ませられればです。

 戸惑う私へやや伏し目がちからの上目遣いと言う高度過ぎる可愛らしい技を使いつつ、うるうるさせた瞳で以って不安げな表情のまま小首をこてんと、それはもう半端なくお可愛らしいその仕草に私の胸はもうキュンキュンと変な悲鳴を上げておりました。


「ヴィー、ヴィーは僕の事が嫌い…・・・なの?」

「り、リーヴァイ……様っ⁉」


 目の前のリーヴァイ様は今までに遭遇したであろう恐ろしい魔王様には到底見えず、それはもう愛らしい天使様なのです。

 背には真っ白くも大きな羽根が生えれば頭の上に大きな白い耳、そしてお尻よりは真っ白なふさふさの尻尾?

 そしてこの様に愛らしくも可愛らしい天使様をどうして……。 


「だ、誰も、この様に可愛らしいリーヴァイ様を嫌う者なんて……」


 ええっ、断言出来ますわ!!
 

 リーヴァイ様は愛されるべき御方なのだと言う事を……。


 そして今私ははしたなくも熟した林檎の様に真っ赤な顔になっているのでしょうね。

 何故ならこの様ないとけなきお子様に対して胸がドキドキしてしまうなんて、わ、私は何と言う罪深い者なのでしょう。


「ヴィーは、ヴィーは僕の事が嫌いだから、だから修道院へ来たの?」

「――――……っ⁉」



 はい?

 えーっと……。

 修道院…・・・でしたよね、ここは――――っ⁉


 何という事でしょう⁉

 恐れ多くも今この瞬間まで私は修道院ここへ来た目的を忘れておりました。

 まさかその目的対象であられる御方よりこの様な指摘を受ける等想像もしていませんでしたもの。

 そして私自身何と申しましょうか、ええ流石に間抜けだと思いましたよ。


 それからゆっくりと周囲を見回しますとアンナや護衛達の、いいえ扉の向こう……正確には正面の扉は閉じてありますがそ、その隣にある窓にはお年を召された修道女の方がおいでになり、皆一様に生温い視線を私達へ向けてくるのは何とも居た堪れない気分にさせられます。

 なので……。

「……て、帝都へ戻りましょうか?」

 そうですよね。

 これ以上この厳粛な修道院を穢す訳には参りませんもの。

 また私自身何か変わった扉を開けてしまった感がどうにも否めず、この様な騒ぎを起こしてしまった以上このまま修道院の扉を叩いたとしても決して受け入れては貰えないでしょう。
 

 でもだからと言ってこのままでは可愛らしくも愛らしい魔王様によるバッドエンドを回避する事が出来ないのもまた事実なのです。

 取り敢えず此度はリーヴァイ様の事もありますのでこのまま帝都へ直ぐにでも戻らなければいけないでしょうね。


「じゃあ一緒に飛んで帰ろうねヴィー」


 にこやかな笑顔で一体何を仰られるのでしょうか。

 このお子様は……。
 

「あのう、飛んで帰るとは……?」

 車は存在しておりますが日本にあった飛行機はこの世界にはないのですよ。

「勿論転移ジャンプするのだよ、僕とヴィーの二人で!!」

「は、はいぃぃぃぃぃっ!?」


 嘘っ、そんな事出来るなんてあり得ないですし物凄く危険で怖――――っ⁉


「口を閉じていて。でなければ舌を噛んでしまうと貴女の愛らしい舌に傷が出来てしまう」


 いやいやいやいやそんな舌よりももっと色々とっ、そう色々と問題な事が〰〰〰〰⁉




 結果その日初めて私は転移魔法を体験しました。
 
 転移した先は大公殿下の執務室で、当然殿下は執務中でした。

 突如現れたご自身の息子様と大きなコブ……私の出現に殿下は大層驚かれになられ、まあはっきりと申しまして私は余りのショックで直ぐに意識を失いました。
 

 ええ何と申しましても人生初の体験でしたもの。

 気が付いた時には大公邸の客間へ運ばれればです。

 どうやら厚かましくも寝台にてそのまま熟睡していたようです。
 

 そ、その……眠っていた時間はと言いますと翌日の朝までですわね。

 自分でもその太々ふてぶてしさに呆れを通り越して恥じ入っておりますもの。


 それから身支度を整えた私はしっかり朝食まで頂き、食後のお茶の席で大公殿下より直々に謝罪をなされかけたのを私は一臣下としてとんでもないとばかりに色々説明をさせて頂き、またご丁寧にミルワード侯爵家のタウンハウスまで送って頂きました。

 
 最後にお暇をする前にリーヴァイ様のご体調等を窺いましたの。

 まあ何と申しましても10歳のお子様が人間二人を一瞬で、然も無傷で約千㎞もの距離を転移したのですもの。

 それこそ何かしらの後遺症があっては大変です。


 しかし殿下からのお言葉は――――。


「身体の方は問題ない。ただ……約束を違えた罰として部屋に閉じ込めているのだよ。あれは多少我儘な所がありそれを可愛いと思う反面将来に背負うだろう責任と義務の大きさをまだまだ分かってはいないのでね」

「はあ、まあ……」
「それに幾ら何でもミルワード侯爵家の令嬢を危険に巻き込んだ事は由々しき問題だよ。たとえ此度は大事がないからとは言え貴女を何度も危険に晒す事は許される道理がない」
「いえっ、私の事等よりもリーヴァイ様のお身体の方が大切ですわっ」


 そうなのです。
 何と申しましてもリーヴァイ様は皇族。
 一介の貴族とは天と地程の差があるのですもの。


「ああ、貴女は本当に優しいご令嬢だ。どうか今後とも私共々息子を宜しく頼むよ」

「あ、はい、え、いいえその様なっ。私こそですわ殿下」


 にこやかな、とても人当たりの良い笑顔を湛えていらっしゃる殿下に私は一体これより先何を頼まれるのでしょうか。

 ええそこは皇室へ忠誠を誓っている一臣下として……ですわよね。


 でも、何故なのでしょう。

 何やら背筋に冷たい何かを感じるのは私の気の所為なのかしら。
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