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第一部  第三章  それぞれの闇と求める希望の光

16  逃がしはしない  リーヴァイSide

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「――――何、故ここに⁉」

 俺の腕の中……とは言ってもこの身体は平均的な10歳男児もの。
 
 だが物理的にしっかりと俺の腕の中には俺の唯一であり愛しくも大切なる女性を思うままに抱き締められず、絵面的にもヴィーの身体へ張り付いた子供として皆に映っていたとしてもだ!!


 俺の脳内ではこれは久方ぶりの愛するヴィーとの抱擁なのだ!!

 但し一抹の屈辱的な想いを抱いたのは致し方ない。


 それでもだ、抱き……い、いやしがみ付いているヴィーの身体より醸し出されるのは爽やかな花々そして甘い菓子の様な、まるで彼女の存在こそが幸せの塊と言っても過言ではない幸せ過ぎる体臭を胸一杯に吸い込めば、甘い幸せを噛み締めている俺はきっとこの時点で既に相当病んでいるのかもしれない。


 いや、俺はヴィーとこうして同じ時を共有する為に生まれてきたのだ。

 ヴィヴィアン・ローズ……俺は貴女と再び同じ時を生きる為に今ここに存在しているのだからね。


「――――愛している。心よりいや魂レベルでヴィヴィアン・ローズ、貴女を愛し過ぎている!!」

「え?」


 愛するヴィーへ抱き着きながら俺は心の中でそう盛大に彼女への愛を、この想いの丈を叫んで、いやいや絶叫していた。
 
 そう流石に現段階ではまだその気持ちを言葉として発する事自体はばかられるだろうくらいの理解は出来ている心算だ。

 なのに彼女への想いを心の中で声を大にして叫んだと同時に『え?』と蚊の鳴く様な声が聞こえた事により、どうやら俺は無意識の内に秘めた想いを声に出していたらしい。


 そうして何とも言えない、俺とヴィーそして周囲の者達の痛過ぎる沈黙が続く事数分。


 俺自身はヴィーへの気持ちが本人に知られただけであって別に何時までも胸に秘めている想いを隠す心算もなかったしな。

 だからまあ彼女に知られたところで特に気にはしていない。

 いや、まあ知られた以上これからは遠慮なく堂々とヴィーへの想いを彼女自身にぶつければいいだけの事だ。

 そしてああそう遠くない未来に、取り合えず無事に成人をした暁には婚約と言う形で以って此度こそ彼女を俺だけのものとすれば俺は生涯を掛けて彼女を護り抜く!!


 ただそれだけの事。

 だから全く問題はない。

 そう、問題は……ない筈なのに、どうしてなのだろうか。


 ヴィーはあり得ないくらいにキラキラと輝くアメジストの瞳をこれでもかと大きく見開いたまま、触れればマシュマロの様に柔らかな身体をこれでもかと、これまたあり得ないくらいにカチコチに固まらせていた。

 その姿を現すならばキャラメルと言ったところだろうか。


「ヴィー……?」


 俺は何とも言えず不安に駆られたまま愛する女性の名を心許無い声で呟く。

 ヴィーはもしかして俺の事が――――。


 ある筈のないどうしようもない一抹の不安が脳裏へよぎる。

 また今この瞬間まで全く考えもしなかった。


 何故なら俺は何時も必死で貴女を探し追い求めてきたのだ!!


 そうして俺はようやく貴女へ、ヴィヴィアン・ローズと出逢い恋に堕ちた。

 いや、生涯をかけて愛し抜く為だけに俺は貴女の傍へこうして来られたと言うのにだ。

 これより先俺は何があろうとも貴女を幸せにしてみせると言う決意で以って――――。


「わ、わた、私もす、好きです……よ、リーヴァイ様」

 そうしてキャラメルの様に固まらせていた身体のままそっと子供の俺をマシュマロそのものの柔らかな身体で優しく抱き締めてくれた。


「ヴィー……」
「大丈夫ですよリーヴァイ様。誰も貴方を傷つける者はおりません」


 ぷるぷると小刻みに揺れる……いや違う⁉

 ヴィーは俺に気づかれない様にしていたのだが、実際に彼女はしっかりと身体を震わせていた。


「ヴィー、ヴィーは僕の事が嫌い…・・・なの?」

「り、リーヴァイ……様⁉」

 瞳をうるうるさせつつも不安げな表情のまま小首をこてんと、こう言うあざとい事は余り俺の得意とするものではない。

 しかしこの場は出来るだけあざとさを前面に出せばだ。

 思い切り可愛らしく傾げて見せる。


 ああ俺は愛しい貴女をこの手に入れる為ならば一時の恥等捨て置き、何度でもそしてこの幼い身体を最大限に利用してやる!!


 そうしてそれが無事に功を奏したのだろうか。

 俺のあざと過ぎる態度とその問いに愛する女性は驚くくらい正直に柔らかな身体をビクつかせた。


「だ、誰も、この様に可愛らしいリーヴァイ様を嫌う者なんて……」

 熟した林檎の様に顔を真っ赤に染め上げたヴィーは、それでも大人な対応で以って子供の身体をした俺を必死に宥めようとするのだがしかし……俺は敢えてその言葉へ俺自身の気持ちを込めて被せてしまう。


「ヴィーは、ヴィーは僕の事が嫌いだから、だから修道院へ来たの?」
「――――……っ⁉」


 嫌だ、絶対に、この先に何が起ころうとも俺は貴女を逃がしたりはしない!!

 漸くここで、貴女と言う存在を見つけたのだ!!

 貴女と、漸く同じ時を生きていけるところまで来たのだ。
 

 なのにここで神?

 アイツに何か絶対に渡しはしない!!

 貴女が今この時点でどう思おうと俺は貴女を決して逃がしてあげれはしない。


 ねぇヴィー、お願いだから一刻も早く俺の許へ堕ちてきて――――ううん、この際しっかりと堕ちて貰うからね。
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