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第一部  第二章  五日後に何かが起こる?

2  癒しです

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 来ない……わね。

 ヴィヴィアンは対面に用意されているだろうもう一人分の席を静かに見つめていた。


 本当ならば食堂にはサブリーナも同席する予定だった筈なのだが、何やら体調が優れないとの事で今日は与えられた客間でゆっくり過ごしたいと言う旨の連絡が彼女を待っているヴィヴィアンの許へと、何故か予定より約一時間以上も経過した頃にようやく伝えられたのである。

 そうして連絡をする為にダイニングへと赴いたハウスメイドのジェーンはヴィヴィアンの許へ到着したと同時に何も言わずに待っていた彼女へ申し訳と言う思いが一杯故に既に半泣き状態で、だが健気にも必死に涙を見せまいと懸命に堪えている姿を見たヴィヴィアンはそっと静かに立ち上がれば優しくジェーンを抱き寄せ――――。


「大丈夫ですよ。誰も咎めたりはしません。あなた達は精一杯自分達のお仕事をしているのでしょ」


 不意打ちとは言え、服越しに伝わる柔らかくも温かいヴィヴィアンの大きな胸に包まれたジェーンはそっとその胸の間よりほんの少し顔を上げれば、そこには慈愛に満ちた何時もの優しい女主人が微笑んでいた。


『お、お母さん!!』


 ジェーンは心の中で激しく自身へそう突っ込んでしまう。
 

『若しくは女神様だ!! 今日まで生きてて良かった!! そしてヴィヴィアン様のお胸は本当に極楽です!! 昨日からの辛い出来事も全部今のこのもふもふお胸で帳消しになりますと言うかい、いやお釣りが……そしてシンディーさんとメアリーにはごめんなさい。私だけいい匂いとふわふわマシュマロに思いっきり癒されちゃいました』


 時間にしてほんの一、二分だったと思う。

 それでもこの時間はサブリーナの蛮行で心身共に疲れ切っていたジェーンにしてみればまさしく――――だったのだ。
 
「何か辛い事があれば遠慮なくお話して下さいね。あなたやシンディー達には大変な事をお願いしてしまいましたがこれも公爵家にとっては必要な事だったのですだから……」
「だ、だ、大丈夫です奥方様っ、今奥方様より元気を沢山頂きましたのでこれよりまた頑張ってきます!!」

「そ、そう、私は何もしてはいないのだけれど……」

 尚も心配そうにヴィヴィアンはこてんと小首を傾げて見せる。


『だ、駄目です奥方様っ。これ以上は〰〰〰〰!?』


「あら」
「まあ」

「う、羨ま……げふんげふん」

 ツーっとジェーンの鼻より赤い筋が下へと向かって落ちていく。

「じぇ、ジェーン⁉」
「だ、だいじょぶですば、おぐがださまっ⁉ で、では御前じつれいいだじまず。ずず……」

 ジェーンは慌ててハンカチで鼻を抑えながら、ヴィヴィアンのいるダイニングを後にした。

 そんな様子をヴィヴィアンは大層心配そうに見つめていたのだが、ダイニングにいる他の使用人達は心の中で思った。

 
 興奮し過ぎだろう――――でもめっちゃ羨ましい奴!!


 そしてその後誰もがジェーンの無事を願うのであった。


 旦那様にだけはバレるなよ。

 あの御方は奥方様へ不埒な思いを抱く者全てを色々な意味で持てる権力と力の全てを行使して滅されてきたのだからな。


 特にこの最後の言葉は長年公爵家に仕えるヘッド・シェフのアンディーだった。
 良くも悪くも主であるリーヴァイの真の性格を見抜いているらしい一人でもあるのだから……。

 
 それぞれの想いも知らずヴィヴィアンは何時もの様にアンディーの作る食事に頬を緩ませつつも彼女は内心思ったのだ。


 少しだけ待ったのだけれどもこれで良かったのかもしれない。

 きっとサブリーナ嬢も私なんかに会いたくないでしょうしね。
 

 食事を終えたヴィヴィアンは遅れた予定を取り戻すべく足早に自身の執務室へと向かうのであった。
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