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第一部  第一章  突然の訪問者

5  狂ったお茶会  シンディーSide

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 今我が眼前にいるのは!!


 アップソン伯爵家の長女、サブリーナ・アビゲイル・スウィフト17歳。

 
 私は何を隠そうこのサブリーナ嬢……いやっ、貴様等もうサブリーナで十分!!

 そうサブリーナとは今日が初対面ではないのです。
 多分サブリーナ向こうは記憶してはいないと思いますが、私ははっきりと今でもあの日の事を覚えています。

 ええっ、余りにも胸糞の悪い出来事故に忘れられない――――と言う方が正しいのでしょう。

 抑々そもそもこの女は昔から色々とやらかし系なのです。

 きっと今回の事も何か裏があるのかまたは――――本当に旦那様自身やらかしてしまったのかもしれません。
 

 
 あれは今より十年前の事です。

 ある屋敷で子供達だけのお茶会が催された日。

 まあそれ自体は貴族子女として、これより先成人を迎えるまでに縦横の繋がりをしっかりと、幼い頃より深めていく方法と致しましては極々一般的でしたわね。


 ただ、その内容が普通のお茶会で、招待した側された側双方共にお行儀よく楽しい時間であれば――――ですがね!!

 
 そう当時10歳だった私が招かれたお屋敷こそがこのサブリーナの生家であるアップソン伯爵家。

 サブリーナの父親であるアップソン伯爵は若いながらもとても穏やかで優しい御方でした。
 長身痩躯の比較的容姿の整った所謂イケメンと言う部類に入り、確か先代のアップソン伯爵家の一人娘……つまりはサブリーナの母親に一目惚れをされての婿入りだったようです。

 仔細は子供故に知らないと言いますか、その方面に関して私は比較的興味を持たない娘でしたので詳しい事はわかりません。

 ですがまだ海の物とも山の物とも知れない私達子供に対しても、顔を合わせれば『御機嫌よう』と、朗らかな笑顔で挨拶して下さった事を今でもはっきりと覚えています。

 
 さてくだんの伯爵家でのお茶会へ常に招待をされるのは、サブリーナの身分と同列若しくは下位または歴史の浅い爵位の子女限定の者達なのです。

 何故ならそれは全てサブリーナの性格故によるもの。

 あぁ正確にはサブリーナの母親であるアップソン伯爵夫人とその血を色濃く受け継いだサブリーナ自身。

 温厚な父親である伯爵の性格を一切受け継いだ様子のない、常に自分よりも可愛くてそして立場の弱い者を見つけては衆目監視の中で派手に貶めるの事が何よりも大好物。


 下衆ですよ、下衆!!


 そう、あの日も気弱で終始びくびくと子兎の様に肩を震わせていた男爵令嬢が可哀想にもターゲットへと選ばれていました。
 
 取り巻き連中と一緒にチクチクと厭らしい地味な嫌がらせより始まり、最終的には言葉にし難い程の虐めと言う暴力が横行していたのです。

 親の権力の笠の下私を含め自分達では何も生み出せない子供の癖に、ターゲットとなる令嬢令息達へ決して癒える事のないトラウマを植え付けるまで行われていたそうです。


 まあ私は一般的な子爵家であり特に私は三女と言う余り者要員に過ぎませんが、しかし我がジプソン子爵家は武門を尊ぶお家柄でもあります。

 その辺りにいるだろう軟弱な子息達よりも私は毎日心身共にがっつりと鍛えているのです。


 万が一ターゲットに選ばれようものならば完全に返り討ちにしてくれると言う自信はしっかりとあります。
 
 その気迫が伝わったかどうかはわかりませんが、この手の問題に私は直接関与された事は未だ一度たりともありません。

 また普段よりこういう陰湿系のお茶会には体質的に合わず今まで避けてきたのですが、ちょっとした手違いで参加する事となったのも偶然その日で御座いました。

 最初から半ば無理やり参加させられたものでしたから、私は到着早々何やら居心地の悪さを感じ早々に挨拶だけを済ませればそのまま伯爵家の庭を優雅に一人散策へと向かっておりました。
 

 何しろアップソン家の奥にあるバラ園はとても美しいと定評がありましたからね。
 時間を潰すにはもってこいなのです。
 そうして気分良く散策を終えた私が戻れば、場の雰囲気は最初の頃よりも明らかに変わっていたのです。

 然もかなり悪い方向へ……。

 周囲にいる子息や令嬢達は完全に怯え、件の令嬢を救う事も出来ずにただただ次のターゲットになりたくないと必死に息を殺し、この狂ったお茶会の終了を今か今かと待っていましたよ。

 何しろ彼等もまた年端のいかない子供達なのです。

 まあ何の因果なのかその日の年長者は私だけでしたから……。


 それから会場のど真ん中で――――とは言いましても高が子供の集まりなので広さはしれていますよね。

 しかしまさか目の前でこんな事が堂々と行われているとは本当に信じ難いとしか言えませんが、でも知ったからには目を逸らさず問題と向かい合うと言う姿勢は、これぞジプソンの血の性のなせるところなのでしょう。


 本当に迷惑極まりないと思いつつも私はゆっくりと深呼吸すると共に今一度しっかりと己自身へ気合を入れ直しましたの。
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