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本編
6 狂った果実 前編
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ラファエル一行はその日の内に帰城した。
出迎えたのは彼が生まれた直後に亡くなった母王妃に代わり、惜しみない愛情を注ぎ育ててくれた乳母のスティア・ヴァレリア・クラクストン伯爵夫人、そして幼馴染のマックスとチャーリーを含む王宮に残る臣下達。
「エル様、余りで御座いましてよ。行き成りご消息が不明となりどの様に心配したと思っているのですか!! この事は当然戦地におられる陛下にも連絡致しましたからね」
「お、おいおいこの様な些末な事を父上にまで……」
「何が些末な事です!! エル様も15歳となられ、ご自分のお立場をきちんとご理解されておられるとばかりこのスティアは思っておりましたが、どうやら考えを少し改めないといけませんわね」
「済まない心配を掛けたスティア。これからは気を付ける」
「はぁこの様な事をこれから何度もされるお心算なのですか? エル様は我が国にとってなくてはならない御方だと言う事をご理解なさっておられるのですか? いつ何時シャロンの手の者がエル様へ襲い掛かるやも限らないので御座いますよ」
これまでに幾度となくシャロンより命を狙われ続けていたラファエルを、乳母であるスティアは命懸けで今日まで必死に護ってきた。
彼女は自身の子供を出産後1ヶ月で亡くし、悲しみに暮れていた所へ当時幼馴染でもあるラファエルの父王より同じく母を亡くしたばかりの赤ん坊であるラファエルの乳母になって欲しいと懇願されたのである。
最初は自分には無理だとスティアは辞退をした。
だがそこへ母の愛を求めるラファエルの泣き声に反応してしまう。
気づけばラファエルを抱き、自身の乳を含ませ、懸命に乳を吸うラファエルの愛らしさに涙を流していたのである。
失った子はもう生き返る事はない。
またラファエルを亡くなった子の代わりにしたのでもない。
スティアはラファエルをもう一人の我が子として愛情を注ぎ、また彼の命を執拗に狙うシャロンの兇者の魔の手より護り育ててきたのだ。
そうスティアはラファエルにとって生みの母と同じくらいに大切な人物なのである。
スティアに心配を掛けた事を謝罪すれば、息子が母親へ話す様にラファエルもまたスティアにマリアーナの事を話したのである。
準備が整い次第マリアーナを王太子妃として迎えると話すラファエルに、スティアは少し冷静な面持ちで話し掛けた。
「エル様、エル様のお気持ちはこのスティアに十分伝わりましたわ。けれども先ずは陛下へご報告なさいませ。エル様は貴族の子息では御座いません。貴方様はこのルガートの王太子、ひいては次代の王となられる御方なのですよ。身分の括りについて申し上げているのでは御座いません。ただ物事には順序が御座います。それに1週間もすれば陛下も御戻りになられるでしょう。その時に改めて彼女の事をご報告されては如何でしょうか」
スティアはラファエルの性格を十分に理解している上で、まだ色々と若過ぎる彼を刺激しない様にやんわりと窘める。
だがラファエルはそんなスティアの言葉を頭では理解出来ていても、彼の心はそうでなかったのである。
生まれて初めて恋と言うものを知り、また初めて何をしても欲しいと願った女性をである。
何をおいても絶対に逃がしたくないとラファエルはその若さ故に強硬な行動に出てしまう。
「明朝一番にマリアーナを迎えに行く。その後は俺の婚約者として王宮に迎える!!」
「エル様!?」
「諄いぞスティア。父上には勿論報告はする」
「では……」
「ああ事後報告にはなる。でも心配はいらない。皆マリア―ナを一目見れば気に入る筈だからな」
「エル様お待ちを!!」
スティアは思わず声を上げた。
だが早々に執務室へ向かうラファエルは部屋を出る前に「これは決定事項なのだ!!」と強く言い放つ。
そうして部屋を後にしたラファエルを見送ったスティアは、何やら胸の奥で何とも言えぬ嫌な予感めいたものを感じていた。
何か大きな嵐が起こる、そんな予感めいたものを……。
出迎えたのは彼が生まれた直後に亡くなった母王妃に代わり、惜しみない愛情を注ぎ育ててくれた乳母のスティア・ヴァレリア・クラクストン伯爵夫人、そして幼馴染のマックスとチャーリーを含む王宮に残る臣下達。
「エル様、余りで御座いましてよ。行き成りご消息が不明となりどの様に心配したと思っているのですか!! この事は当然戦地におられる陛下にも連絡致しましたからね」
「お、おいおいこの様な些末な事を父上にまで……」
「何が些末な事です!! エル様も15歳となられ、ご自分のお立場をきちんとご理解されておられるとばかりこのスティアは思っておりましたが、どうやら考えを少し改めないといけませんわね」
「済まない心配を掛けたスティア。これからは気を付ける」
「はぁこの様な事をこれから何度もされるお心算なのですか? エル様は我が国にとってなくてはならない御方だと言う事をご理解なさっておられるのですか? いつ何時シャロンの手の者がエル様へ襲い掛かるやも限らないので御座いますよ」
これまでに幾度となくシャロンより命を狙われ続けていたラファエルを、乳母であるスティアは命懸けで今日まで必死に護ってきた。
彼女は自身の子供を出産後1ヶ月で亡くし、悲しみに暮れていた所へ当時幼馴染でもあるラファエルの父王より同じく母を亡くしたばかりの赤ん坊であるラファエルの乳母になって欲しいと懇願されたのである。
最初は自分には無理だとスティアは辞退をした。
だがそこへ母の愛を求めるラファエルの泣き声に反応してしまう。
気づけばラファエルを抱き、自身の乳を含ませ、懸命に乳を吸うラファエルの愛らしさに涙を流していたのである。
失った子はもう生き返る事はない。
またラファエルを亡くなった子の代わりにしたのでもない。
スティアはラファエルをもう一人の我が子として愛情を注ぎ、また彼の命を執拗に狙うシャロンの兇者の魔の手より護り育ててきたのだ。
そうスティアはラファエルにとって生みの母と同じくらいに大切な人物なのである。
スティアに心配を掛けた事を謝罪すれば、息子が母親へ話す様にラファエルもまたスティアにマリアーナの事を話したのである。
準備が整い次第マリアーナを王太子妃として迎えると話すラファエルに、スティアは少し冷静な面持ちで話し掛けた。
「エル様、エル様のお気持ちはこのスティアに十分伝わりましたわ。けれども先ずは陛下へご報告なさいませ。エル様は貴族の子息では御座いません。貴方様はこのルガートの王太子、ひいては次代の王となられる御方なのですよ。身分の括りについて申し上げているのでは御座いません。ただ物事には順序が御座います。それに1週間もすれば陛下も御戻りになられるでしょう。その時に改めて彼女の事をご報告されては如何でしょうか」
スティアはラファエルの性格を十分に理解している上で、まだ色々と若過ぎる彼を刺激しない様にやんわりと窘める。
だがラファエルはそんなスティアの言葉を頭では理解出来ていても、彼の心はそうでなかったのである。
生まれて初めて恋と言うものを知り、また初めて何をしても欲しいと願った女性をである。
何をおいても絶対に逃がしたくないとラファエルはその若さ故に強硬な行動に出てしまう。
「明朝一番にマリアーナを迎えに行く。その後は俺の婚約者として王宮に迎える!!」
「エル様!?」
「諄いぞスティア。父上には勿論報告はする」
「では……」
「ああ事後報告にはなる。でも心配はいらない。皆マリア―ナを一目見れば気に入る筈だからな」
「エル様お待ちを!!」
スティアは思わず声を上げた。
だが早々に執務室へ向かうラファエルは部屋を出る前に「これは決定事項なのだ!!」と強く言い放つ。
そうして部屋を後にしたラファエルを見送ったスティアは、何やら胸の奥で何とも言えぬ嫌な予感めいたものを感じていた。
何か大きな嵐が起こる、そんな予感めいたものを……。
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