泡沫の恋 ~操り人形はその宿命より逃れられない

Hinaki

文字の大きさ
上 下
5 / 10
本編

4  決意

しおりを挟む
 穏やかでそれでいて胸の奥が甘酸っぱくも擽ったい様な気持ち。
 マリアーナの微笑む姿を見るだけで、胸の中がグッと熱くなれば息も止まりそうになる程に苦しくもありまたそれと同じいや、それ以上に何処までも甘美な一時……。

 ラファエルが楽園であるこの場所へ来てもう直ぐ十日になる。

 これは最初から理解もしていたし納得もしていた。
 それは今も変わらない。
 だがこの甘美で幸せな時間は永遠ではない事を、何時までもこの場所に留まってはいけないをである。

 何故なら彼は自分の立場を十分過ぎる程に理解をしていた。
 ラファエルは生まれながらの王族。

 然もただの王族ではなくこの国の王太子であり、次代の王となる存在。

 王族たる者は常に己を律し、大切な国と国民の生活を全力で護らなければいけない。
 何処かの阿呆の様に王族だからと国民の生活を一切顧みず、己が快楽や私服を肥やしてはいけないのである。
 ただ悲しい事にごく僅かではあるのだが、そんな自分勝手な阿呆は何処の世界でも存在しているのが現実だ。

 この楽園に留まれるのは長くても十日。
 兇者より受けた傷も完全ではないが塞がりつつある。
 また怪我の療養の為だけにラファエルはここに滞在していた訳ではない。
 そうあの時一緒にいた従者達を待っていたのである。

 運よく生き延び自分の元へとやって来てくれる事を願っていたのだが、残念ながらラファエルの元へやってくる事はなかった。
 従って今彼がここにいる事を知っている者はマリアーナのみ。
 そして彼女にはまだ自分の正体を明かしてはいない。


 無論マリアーナをこのままにしておく心算はない。
 彼女は俺にとって運命の半身とも言える存在に等しい。

 マリアーナが傍で笑っていてくれるだけで俺はどの様な困難だろうとも立ち向かう事が出来る!!

 ここへ来て彼女の人となりを見てきたが、顔が美しいだけでなく無欲でその心も美しい。
 十五年生きてきて初めて女性に対しこの様な感情を抱いたのもマリアーナだけなのだ。
 こうして何時までも彼女の笑顔に包まれていたい。
 だからマリアーナへ俺のこの熱い想いを打ち明け、そして必ず彼女を俺の唯一の正妃とする!!

  
 ラファエルは初めての恋に胸を躍らせていた。
 とは言え何時までもこの楽園に留まりたいのだが立場上それは不可能である。
 だからラファエルはマリアーナを忘れるのでなく、自分と共に歩いて欲しいと願った。
 きっと後二、三日もすれば彼の行方を探し出し、王宮より迎えの者がやってくるだろう。
 それまでになんとしてもマリアーナに自分の身分を明かし、彼女への愛を告白しようと考え巡らせていた。

 何しろなんてものをするのは生まれて初めての事。
 初恋も初めてでその上告白もである。
 恋愛云々に関しては一般的な15歳の少年よりも知識は乏しくまた初心なのだ。
 だがラファエルに残された時間は限られている。
 マリアーナには嫌われてはいないと思ってはいてもだ。
 15歳の少年ラファエルにしてみれば、それはとても大きな壁にも等しかったのである。

 頭の中でどの様なシチュエーションとタイミングで行えばいいのかと、無い知恵を絞り思い悩んでいればである。
 機会は呆気ない程早くに訪れたのだった。


 それは翌日の昼下がり……。
 午前中の仕事を終えたマリアーナが息せき切って小屋へ、ラファエルの元へ戻ってきた彼女が最初に告げた一言だった。

「エル、天気が良いからお昼は池の畔で食べない?」
「池の畔?」
「そうっ、サンドウィッチを作ってピクニックをしよう」

「あ、あぁいいね」

 ラファエルはどきどきと胸が高鳴っていた。
 木々が生い茂げ木漏れ日の差す池の畔でマリアーナへ、自分の正体を明かすと共に愛しい彼女に想いを伝える決意をした。

 マリア―ナはやや硬めのバケットにチーズと野菜を詰めたサンドウィッチをバスケットへ詰め込むとラファエルに声を掛け、二人はゆっくりと傍近くにある池の畔へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

一番でなくとも

Rj
恋愛
婚約者が恋に落ちたのは親友だった。一番大切な存在になれない私。それでも私は幸せになる。 全九話。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

処理中です...