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第九章 永遠の別れ
6 脳アミロイドアンギオパチ
しおりを挟む「お母さんの病名は脳アミロイドアンギオパチーです」
何それ?
今まで聞いた事がない病気だよ。
でも先生はポピュラーな病気だと言う。
脳アミロイドアンギオパチーとは簡単に説明すればである。
アミロイドと言う蛋白質が脳血管へ沈着しそれを起因として起こる脳血管障害の事を言う。
ただそれが分かったところで何がどうなると言う訳でもない。
また私はその病気を知ると共にひしひしと感じてしまう予感めいた大きな不安に……。
「数年でどうこうなると言う病ではありません」
余命について問うてみるけれども大丈夫だと先生は平然とした態度で言う。
しかしそう言われてもはいそうですかと、一度抱えてしまった大きな不安は全く拭い切れるものではない。
それどころが不安は益々募るばかりである。
また病名が正式に判明した事でステロイド治療が開始された。
治療と言ってもそんな大事ではない。
ただの内服と点滴だけである。
その後経過観察後MRIでの画像確認をすれば驚く事に脳炎を起こしていた場所は完全ではないにしろ綺麗に治ってきている。
高がステロイド、されどステロイドと言ったところだろうか。
しかし脳が回復したからと言って母の認知症が改善する事はない。
確かにそれ以外にも向精神薬を服用している事もあって暴言暴力は次第にましになっていった。
そして退院の前に私達は去年の6月での診察について苦言を呈した。
確かに画像を完全に読影するのは難しいのかもしれない。
でもだからと言って僅かな所見を見逃す事により、取り返しのつかない事態へ発展するケースは確実に存在する。
それ故に私達医療従事者はミスを犯す事は許されない。
また田中先生が対診依頼をし家族が認知症を心配して来院したと言うのにである。
『へ? こんなちょっとした事を問題視する?』
藁をも縋る患者とその家族にしてみればこれは普通にあり得ないくらいの酷い暴言である。
だから私はその時の担当医師へ謝罪を求めた。
そしてその医師はその心算は……あぁまた出たよって思った。
言う側にして見れはこれはほんの些細な事。
だが言われる側にしてみればどの場面でも大事だし忘れられない言葉なのである。
またそんな心算は……ってじゃあどんな心算で何時も相手に話をし、診察をいるのだと声を大にして叫びたかった。
でもギリ我慢を……した。
あー少しは口調が厳しかったかな。
だけど仕方ないでしょう。
母は私の大切な家族でありたった一人の親なんだもん。
私達三人の子供を全力で護ってくれたから、今度は私達三人の子供が母を護らなくてどうするよ。
そして病気の事も然りである。
幾らポピュラーだと言っても聞いた事のない病気を安易には捉えられないし、そしやはりあの6月の画像があの時にちゃんと発見されていたらと思えばめっちゃ切なくて今も悔しい。
『あなたも知っている様に私達は神じゃない』
あははは――――っ⁉
そう言われてしまいましたよ。
確かに医師も看護師も神ではなく人間だ。
そしてその人間の出来る事には必ず限界はあるしまた出来る事は高が知れてもいる。
でもだからと言ってよ。
幾ら私が准看護師だったからと言ってそれを私へ言いますか?
私はこの時程医療従事者である自分が嫌だと思った。
そう何故患者の家族である私が医療従事者だったからと言って医師側への忖度をしなければいけない?
そんなの可笑しいでしょ。
ああ何か、医療従事者は生涯純粋に家族の事だけを考えてはいけないのだろうか。
そうして3月8日半ば追い出される様な形で母は退院すれば、これが私達親子で過ごす最期の時間となったのである。
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