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第八章  それはある日突然に

12  期間

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 一体目の前の人は何を言っているのだろうか。

 意味不明。

 理解不能。

 なので私はもう一度、今度はちゃんと理解出来る様に聞き返す。

 
「申し訳ありませんがよ」


 いやいやいやいやちょっと待ってよ!!

 ちゃんとそれは電話で説明したし、ここまで来て手続きをしないといけないと言うから辛いのを頑張って電車にも乗って態々わざわざハローワークここまで来たんだよっっ。

 それなのに失業手当が出ませんて、それだったら電話で聞いた時にはっきりそう言ってくれたらよかったやん!!

 はあ、でましたよお役所仕事が……。


 それにである。
 私が高校を卒業し就職した時よりずーっとまあ本当に勝手だけれども給料より天引きされ続けていた雇用保険。

 看護助手だった時もだけれど運よく看護学校に受かり薄給の上に看護学生あるあるの極貧生活においてでも情け容赦なく引かれ続けた雇用保険がよ。

 過去一度たりとも失業手当を申請した事はない。

 何故なら転職する時は必ず次を決めていた。

 だから休む事なくまた次の病院でちゃんと働いていたのである。

 また休んだとしてもそれは単に有休消化に他ならない。


 それが何故っ、どうしてここ一番と言う時にっ、必要な時に限って受給出来ないだなんて絶対に納得がいかない!!

 と言うか貰えないんだったら返してよっ、今まで払った分の雇用保険料!!


 色々と荒ぶる私の気持ちを何とか静め……いやいや多少の文句と言うか、二言三言は流石に納得が出来ないから食い下がりましたよ。

 だって本当に納得が出来ないんだもん。
 でも受給が出来ない理由は直ぐに分かってしまった。


 そうただ単にだけである。


 職員の人に訊けば受給出来る期間は最長で四年だと言う。

 当然これまで失業手当を貰った事がない私に受給期間が存在するなんて事を知り様筈はない。

 兎に角働ける様になれば貰えるものだとばかり思っていた。

 そして勿論N病院よりその事実を教えられはしなかった。


 ああ本当に何処までもついていない。
 

 意気消沈した私は肩をがっくりと落としつつ帰路へと着く。

 ハローワークへ到着し順番が来るまでの私は内心これからの事を考え少々なりともワクワクしていたのである。

 しかし帰る電車の中では夕方と言う時間帯もあって帰宅ラッシュに遭い気分は駄々下がり状態。

 そうして何とか帰宅すれば母が玄関まで出迎えてくれ、私の悔しい胸の内を納得するまで聞いてくれた。

 まあその後暫くの間はまた心臓がポンコツ状態となって半寝たきりの日々が続いたけれどもである。


 だが私は何時か声を大にして叫びたい。

 普通の病気や怪我においても長期間の療養が掛かる場合は少なくはない。

 ましてや私の様な鬱は心の病故に何時完全に回復するかなんて誰にも分らないのである。

 そんな不確かな病へ受給期間を設けるのは如何なものだろうか。
 

 元気な時は少額とは言えども国はちゃんと国民より雇用保険料を徴収するのであれば、何時か治るだろう精神障害の病については期限を設けて欲しくはない。


 今現在私は鬱を患って八年と半年を迎える。
 大分よくはなったけれどもまだまだ完全に治癒をした訳ではない。

 そして私同様に長く鬱を患う人達もこの日本には多いと思う。

 だからそんな人達へ新たなる次のステップ軽やかに踏み出せる為にも失業手当を見直して欲しいと切に願う。


 幸い私には私を助けてくれている母や弟妹と言う存在がいた。

 でも全ての人がそうだと言う訳ではない。

 また私には資格もあり色々と恵まれている方なのだと今になって思い至るのだ。

 そしてこういう前向きな考えが出来る様になったのも全ては私の家族のお蔭である。

 失業手当が貰えなかったのは残念だけれども私にはお金以上に掛け替えのない宝物を持っている。


 でもその宝物は何時までも、そう永遠に私の傍にいてくれるとは限らない。


 何故なら全ての命ある者達はこの世で産まれ出でた瞬間からそれぞれに決められただろう死の瞬間へ向かって歩みを続けていくのである。


 それはどの様に著名な人であろうがまた何処にでもいるごく普通の一般人も同様に死はもたらされしもの。

 そしてそれは当然私自身と認めたくはないが私の家族にもその時間は刻一刻と息を潜めつつ近づいてくるのであった。
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