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第八章  それはある日突然に

2  裁判所で

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「ああ、こうきたんか。でも内容を見る限りと言うか何ともまあこれははっきり言ってごり押しだわな」

「はい」
「でも実際桃園さんはこうして被害を受けているんだしな。それを認めないと言うか世間的にもなかったものとして謝罪や慰謝料請求の意味をなくす……か。でも桃園さんはなかった事には出来ひんやろ」

「はい」
「そうやろな。わしの所ヘ来るまでからずっと苦しんできたんやもんな。それに慰謝料は兎も角桃園さんの一番は相手からのなんやろ。それがなければまだまだ一歩も前へ踏み出せん……わな」


 そう、私自身の新しい人生の一歩を踏み出す為にも相手からの謝罪は必須だった。

 何時か心よりの反省とまでは言わない。
 でもちゃんと言葉だけでもいいから謝罪をしてくれるものだと信じてこれまで頑張って……色々まあ脱線はしてきたけれどもである。

 でも全ては謝罪ありきでどんなに辛くしんどくても病気が治りたい気持ちと同じくらい相手の反省を望み、その為に遠くの病院への通院も頑張って行っていたのである。

「まあ確かに簡易とは言え裁判……でも今回は裁判官よりも調停役が入っての話し合いだろうと思いますよ。普通に考えても桃園さんの勤務状態やパワハラ等も含めてな。確かに労災は認定されへんかったけれどもです。それでもあなたが苦しんだ事実は何ら変わりはしない」

 そしてその裁判と言う名の話し合いの席へ母の同席を医師の見解から必要だと言う診断書も先生は進んで書いてくれた。

「気を負わず、自分の話したい事を話してきなさい。病院側は兎も角調停役の人は完全に中立だからね。ちゃんと桃園さんの話も当然の事ながら聞いてくれる」


 そう言って先生は私を勇気づけてくれた。

 裁判の日は刻々と近づいてくる。
 当然その日が近づけば近づく程私の精神は不安で一杯になってしまう。

 一体何を言われるのだろう。

 そして私は普通に答えられるのだろうか。

 何もかもが初めての経験。


 幸い簡易裁判所は同じ伏見区内にある。

 昔住んでいた場所に近いから、また私は幼い頃よりその前を数え切れないくらい通った記憶はある。 
 でもその内に一度たりとも中へは入った事がない。

 何時もしんとした静寂の中にある建物。

 今日私は母と二人でその建物の中へと初めて入っていった。

 ちゃんと冷静に話が出来る様に興奮を抑える頓服もしっかり服用して……。
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