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第七章  黒闇の闇の中で

15  新たなるステップ

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 一瞬とは言え他者に対し生まれて初めて殺意を抱いてしまった日よりそう遠くない事だった。
 自宅へ一本の電話が鳴ったのは……。

 あれは約一年も前の事だったのだろうか。
 それとももっと以前の事なのかもしれない。

 そう東京にいる妹が私へ出来得る限り腕のいい医師へ診て貰いたいと、お得意のネットで探しに探し出し勿論そこにはと言う条件も含まれていた。
 
 何故なら毎度おなじみの私のポンコツ心臓だからである。

 K病院の奥野先生は確かに腕のいい先生である。

 入院施設も完備され、何よりではない普通の個室も完備されてもいるらしい。

 また色々と入院生活も細かく変更出来る等と中々にない病院だと私も思っていたけれどもである。

 片道約二時間の通院ははっきり言ってめっちゃしんどい。


 それでも受診する日には頑張って朝からお風呂にも入って人並みの公衆衛生を行い半ば這ってでもK病院まで通院したのはひとえに診察後に得られるだろうほんの少し心が軽くなれば普通に笑う事が出来ると言う他ならない。

 またそれだけの為に私は頑張っていたと言っても決して過言ではない。

 
 そうして妹が探し出してくれたクリニックは私達が住む同じ伏見区内にあった。

 時間にしてタクシーで約20分くらいかな。
 乗って座っての移動はとても楽ちんだ。

 でもだからと言って奥野先生とこれきりなのは正直に言って悲しいし寂しい。

 何故なら彼女はあの苦しんでいただろう時、膝を抱えて泣く事しか出来なかった私へ手を差し伸べれば闇へ堕ち行く私を何とかギリギリ押し留めてくれた先生。

 何度も私を見る事のなくなった夫との離婚を勧め、でもそれだからと言って離婚へ踏み切らなかった私へ変わらずに穏やかな微笑みで真剣に話を聞いてくれた人。

 家族にも理解出来ないだろうこの感情と真正面から向き合ってくれた掛け替えのない人。


『藤寺先生はとてもいい先生ですよ』

 そう言って奥野先生はその一歩を踏み出しきれない私の背中をそっとを押してくれた。
 
 奥野先生……本当に有難う御座いました。
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