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第七章 黒闇の闇の中で
14 暴走する感情と囁き続ける悪意
しおりを挟む「今までずーっと、ずーっとずーっと必死に我慢していたんやもん。どんなに忙しくても、穿刺なんかした事もないって最初から言っていたのにっ、それやのにほぼほぼ教えもせぇへん癖に、時間が掛かるとか下手やとか文句ばーっかり!! リーダー業務だってほんの半日やで、一緒についてくれたん。それ以降は何時も一人。せやのに、仕事がわからへんからマニュアルを探したところでって言うかさ、存在せぇへんてどういう事なん!! ほんまマニュアルがないって今の時代じゃめっちゃ考えられへんやん。それに誰に聞いても全部全部が一貫性のない情報ばっかり。それを何とか繋ぎ合わせて仕事をすれば文句ばっかり言う。おまけに誰に聞いたんやって何度もねちっこく問い詰めてくるし、素直に相手の名前を言えば今度は教えた人達を笑いながら虐めるんやで。虐めるってわかって何で名前を言わなあかんの!! それに休憩だって、お昼ご飯だって満足に食べられへんくらい忙しいのにさ、なのに誰一人気にもしてくれへんの。看護部長だって、私は何度も話を聞いて欲しくてっ、こんな状態は可笑しいって思っているのに全然聞いてくれへん。何時も何時も一言だけ言って逃げはるんよ。……誰もなんも助けてくれへん。なのに正看護師でもなければ役職付きでもないのにスタッフを纏めろ? あははははは、誰が私の言う事を聞くと思うん。一番経験の浅い准看護師なんやで。教育もなんもないのにスタッフを纏めろって可笑し過ぎるや〰〰〰〰っっ!!」
奥野先生とのカウンセリングで今まで少しずつ小出しに吐き出していた諸々の感情が目の前の母へとぶつかっていく。
ここでそんな感情を、関係のない母へぶつけた所で何も解決しないのはわかっていた。
また私が感情をぶつける事により母を更に傷つけ追い詰めていく事も。
なのに一度決壊してしまった負の感情は荒ぶる奔流となれば容赦なく母へと襲い掛かってしまった。
嫌だ!!
母へこんな事を言いたい訳じゃあない。
なのに止まらない。
私の中で産まれてしまった憎悪が母へ一切の容赦もなく全力で攻撃をしている。
そしてその事に私は仄暗い笑みを心の中で浮かべてもいたしその反面悲しみと申し訳なさで涙を流していた。
その後も家より自由に出られない事に苛立ち部屋へと戻されてしまったが、何故か私の前でどんと椅子に座ったまま私を監視する母とお姫達?
「なあ一人にしてぇな。もう何処にもいかへんし」
何度懇願しても母は頑としてその場より動かない。
そしてお姫達はベッドの上でそれぞれ自由に、この何とも遣り切れない空気感の中で全く緊張感のない様子でしっかりお昼寝中。
僅かながらに残っていた私の理性と母の鉄壁のガードによってその日のニュースのネタとならずに事を得た。
でも私の中では思いのままに行動し、あいつらを今まで我慢してきた想いの分だけ刺し続け殺したいと言う純粋な殺意はまだ残っていた。
それと同時に嗤いながら彼らを殺したいと言う気持ちに反して何故そんな事を考えてしまうん……と純粋過ぎる憎悪と殺意に戦々恐々とするこれまでの私も心の片隅に存在している。
一体私はこの先どうなってしまうのだろうかと不安で一杯になる。
今の私の心の中は荒涼たる荒野となりきっと草木一本すらも生えてはいないだろう。
こんな、負の感情に囚われてしまった私は本当に元の生活へ戻れるのだろうか。
そしてさっき感じた足元から頭の天辺迄突き抜ける様な嬉々とした悪意を知ってしまった今、あの想いの終着点は何処へと向かって行くのだろう。
今回は殺人者にはならなかった。
それはここにいる母のお蔭なのかもしれない。
でも次は?
もし私の心に理性がなくなってしまったら?
完全に悪意に乗っ取られてしまえばどうなる。
まさか流石に母やお姫達を……はないだろうって本当に言い切れる?
あの感情の高まりはとても気持ち良かったのでしょ。
細胞の一つ一つ、全てを悪意で満たせてしまえばもーっと気持ちがいいわよ。
ねっとりと絡みつく様に甘く囁く妖しげな声。
ああ、気が緩めば直ぐにでもあちらの世界へ引き込まれそうになる。
万が一引き込まれればもう私は前の私ではいられなくなるだろう。
ねぇ一体どうすればいい。
どうしたらいいのだろう。
一瞬は囚われてしまったけれどもだ。
憎い相手だからと言ってあの人達を殺していい訳ではない。
そして出来るならば私は殺したくはない。
お願いだから一言で言いから一日でも早く謝罪をして欲しい。
そして私が無事に暗闇より這い出る為の力を貸して欲しい。
ねぇお願いだから……!!
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