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第六章 壊れ失うもの
閑話 A5ランクの霜降りお肉様と我が家の大魔神様
しおりを挟むその日は大晦日。
譬え心に何か大きなものを抱えてしまったと言えどもである。
うじうじとその余韻に浸っている暇もなければ時間もない。
と言うよりも心に抱えてしまったものに当の私はその事へ全く気が付いてはいない。
だからしてこの現状で目指すべき場所は閉店前近くに催されるだろう年末恒例ダンピング品争奪戦争へいざ出陣!!
これは毎年12月31日の大晦日、その夕方近くになればどのスーパーも明日からの大型連休故に賞味期限の近い生ものを売り切ってしまいたいお店側事情と、1円でも安くそして美味しいものを仕入れたいと切望する主婦達の熱いバトル。
先ずは最初に青果より始まれば、途中地点のお魚からの最終目的地であるお肉へと時間毎に最高半額までのダンピングが行われる。
お魚に至っては鮮度の良い柵状のお刺身は勿論、お肉は霜降りA5ランクの国産和牛やブランド牛も関係ない。
そうして当然来店している客は私同様スタッフの行動を細かくチェックしていると言う訳だ。
店内にいる大半の客が何時でも臨戦状態。
そんな中刻々と過ぎ行く時間は実に惜しい。
またヘロヘロ具合に疲れ切っている身体を引き摺ってでもである。
通常購入するのを躊躇うだろう金額と質の高いお肉様をだ!!
この日ばかりはそれらを一切気にする事無く多量に仕入れる事の出来る唯一の日!!
私はスタッフの行動をつぶさにチェックしつつ先にダンピングされているだろう青果コーナーを回って必要なものを籠の中へと入れていく。
勿論カートの二籠使いは通常仕様。
調味料やお餅は既に購入済み。
目指すはA5ランクのお肉様!!
目的となるものをゲットした暁には、常日頃仕事で身体と心がズタボロな私をどうか癒しておくれっっ。
そうして待つ事一時間と少し……流石に私のポンコツ心臓もじわじわと悲鳴を上げ始めてきただろうと言う時にである。
既にお魚コーナーは白旗を揚げ半額へと踏み切っていた。
そんなお魚コーナーへ一気に大挙する人人人。
その中には当然私も――――いた。
目指すは新鮮なお刺身からの、ブリかまと腹の切れ身!!
お正月には欠かせないぶりの照り焼き。
そこからのお魚コーナーで作っているだろう鮮度の良い握り寿司!!
これは晦日蕎麦と一緒に摘まめる程度の量があれば十分。
晦日蕎麦に入れるだろう海老天用の大きめの海老も忘れない。
多忙を極め心身共に疲れ果てていようともである。
ほぼほぼ母の手料理で育った私にしてみればだ。
海老天と少しの野菜天ぷらは市販よりも自宅で揚げた方が何倍も美味しい。
そしてその手間を省く事は最早許されないと言うか出来ない。
こうして望むものほぼ全てを抑える事の出来た私の前へ到頭スーパーのラスボス的な存在でもあるお肉コーナーが徐々に白旗を揚げていく。
最初は無難な鶏肉からの豚肉へ。
半額だと色々と買い押さえておきたいものがある。
そしてそれらは小分けにし綺麗のらっぴんされたのちは冷凍庫へと暫しの間眠っていただく。
日の目を見るとの時まで……。
そう我が家の冷蔵庫はめっちゃ大きい。
何と言っても某アイドルグループ……今は活動休止となっているけれどもだ。
そのグループが宣伝していただろうメーカーの容量600ℓ以上の大魔神様。
因みに京都で最初に購入したのが我が家なのだと、家電量販店のお兄さんがこっそりと教えてくれた。
まあそこにも逸話と言うものがあり、最初は何気に見ていたその冷蔵庫。
流石に大きいし素直に欲しいと思った。
値段を見れば30万円。
普通に高いよね~って思った次の瞬間だった。
何故か直ぐ隣にはこの冷蔵庫よりもほんの少し小さくて、今一つパッとしないのも同じく30万円。
こは如何に?
そこへ通りがかったお兄さんに聞けばである。
どうやらスタッフのお値段張り出し価格のミスだったみたい。
本来ならばもっと高額な冷蔵庫。
しかし今この値段を見てしまった私達。
『今ならこの記載してある値段でお売りします。その代わり内緒ですよ』
苦笑するお兄さんのお勧めで何と大魔神様は晴れて我が家の子となったのである。
その後私は最後に白旗を揚げた牛肉コーナーへ出陣を果たせばである。
見事に綺麗な刺しの入ったA5ランクのお肉様=家族分をゲットした。
勿論姫様達の分も忘れてはいない。
他のお肉様もゲットして心は久々にウキウキ状態からの爆上がり。
色々大変な一年だったけれどもである。
最後の最期でこんな幸せ気分を楽しめたのだ。
来年はきっといい事があると私は何時もと変わらず呑気にそう思っていた。
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