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第六章 壊れ失うもの
15 最初の一撃 Ⅲ
しおりを挟むリーダーをするまではそんな面倒な事を考えようともしなかった。
しかし負のスパイラル状態の透析センターで無理やりとは言えリーダーとして、新たな責任者が来てくれる日までに何とか、そうほんの少ししか役立つ事が出来ないとしてもだ。
それでも新しいスタッフが赴任する時に私の様な戸惑いや理屈で解決の出来ない様々な葛藤を少しでも減らす事が出来れば――――と思ったのである。
それなのにだ。
「あ、いいんじゃない。ほら桃園さんが向こうへ行けば藤沢さんは絶対にこっちへ帰って来るって!!」
無邪気……いやいや無責任にそう同意するのは本日で去る予定の鷲見山さん。
「でしょう。私ってめっちゃ頭がいいと思わへん?」
桜井さんは悪びれる様子は一切なく、それどころかぐいぐいこれでもかと私にしつこくAチームへ行けと言う。
一体どんな神経をしているのやら。
「は? 何言ってんの。勤務を決めるのは看護部長で私じゃあないんよ」
「じゃあ看護部長へ直接言ってみようか」
薄ら嗤いを湛えながら言うのをやめて欲しい。
めっちゃ気持ち悪いし気分も悪い。
「――――アホらし……相手になっていられへんわ」
そう言って半ば無理やりその輪より私は出て行く。
一応何とか強気では言い返したものの、実際の所内心では思いっきり動揺していたのは言うまでもない。
抑々これまで四十三年間生きてきた中でここまでの言葉の暴力と人を人とも思わぬ態度をされた経験はない。
それだけに放たれた言葉と態度が鋭利な刃となって既に激務の果てにボロボロとなり息も絶え絶え状態の私の心へぐっさりと突き立てられた瞬間、直ぐに言い返す言葉は見つからなかった。
また桜井さんを助長させる様な物言いをする鷲見山さんも本当に大概である。
今日までで契約が切れるからと言って勝手過ぎるのもどうかと思う。
そして最後に森川さん。
彼女は表立ってどちらにも付く事はない。
だから桜井さんの物言いに否定や肯定をする訳でもなく、ただ静かに状況を見据えていた。
まあそれを言えば私だってぶっちゃけ派閥なんてどうでもいいと思っているうちの一人だ。
だが現状今のBチームにおいて藤沢さんと私……これはかなり語弊があり過ぎる。
正確には藤沢さんと桜井さん、そして藤沢さんへ絶対に逆らえないだろうMEの男の子達に風に揺れる柳の枝の様な森川さん対私一人――――なのである。
そう現在私の味方はこの透析センターにおいて誰一人いない。
完全に孤立してしまっている。
そしてそれは何時から……?
多分9月にリーダー業務をする事になった瞬間から徐々に、また気が付けばって本当にそれに気づいたのは実の所八年以上経ってからである。
悲しい事に同じ仕事を頑張る仲間だと思っていたのはどうやら私一人だけ。
ああ、その事実が何とも滑稽過ぎる。
そして悔しくも腹立たしい。
最初の一撃はこうして膝ががくがくする程にショッキングな出来事だったのは間違いない。
でももしまた同じ事を言われてしまったら……?
その時は今日と同じ様に上手く躱す事が出来るのだろうか。
いや、相手もいい大人なのである。
そう何度も人を軽々しく貶める言葉と態度を投げかける程愚かではないだろう。
この時の私はまだまだ楽観視をしていた。
それはきっとこれまでの人生においてここまでの悪意と言うものに私自身晒された事がなかったからなのかもしれない。
だがまさかその二日後に同じ言葉と態度をお見舞いするとは本当に露程にも思わなかったのだ。
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