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第六章  壊れ失うもの

7  必要とされる事

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「桃園さん!! そこが終わったら田中さんを穿刺して!!」

「は? でも次は上野さんやろ」
「いいから!! 上野さんは私がするからいいの!! わかった桃園さん!!」


 何時もながらに随分と上から目線な鷲見山さんの物言いである。

 何が何でも自分の思う通りに人を動かしていく。
 そう今の様に罵声に近い命令口調の時もあれば、時にはと言うかである。
 明らかに自分より立場が上だろう相手の場合は露骨なまでの機嫌を取り、猫撫で声で煽てながらも自分の思う通りに人を上手く動かしていく。

 そうしてそのどちらも自分の思う通りに動かなければ癇癪を起こす。

 全く何て大きななのだろう。

 34歳にもなって心が子供だなんて……。

 また大きな子供の鷲見山さんの腰巾着の様にくっ付いているのが桜井さん。
 桜井さんは鷲見山さんよりも長い透析看護の経験が十年はあると言う。

 だがほぼほぼと言ってもいい。

 何故か彼女は自ら進んで穿刺をしない。

 穿刺が出来ないとは一言も聞いた事はない
 そして何時も鷲見山さんの穿刺の介助をしている。


 まあ私も前職での穿刺は全てDrが行っていた。
 それに以前研修へ参加した折に聞いた話ではDrのみの穿刺を行っている病院は非常に少ないと言う。

 そう少ないだけで全くではない。

 私の前職の病院でもそうだった様に桜井さんの前職の病院でもそのスタイルだったのかもしれない。
 ただそれは私の憶測でしかないけれども……。

 しかしたとえそうだったとしてもである。
 穿刺に不慣れだとすれば同じく未だに穿刺に慣れない私と同じラインではないのだろうか。
 なのに鷲見山さんと一緒になって桜井さんは私を見てはわらうのである。
 全く理解不能だ。


「田中さん、穿刺行いますね」

 そうして仕方なく、本当は鷲見山さんの命令に従う様で嫌だったけれどもである。
 しかし拒否をすれば当然患者さんである田中さんの透析は何時まで経っても始まりはしない。

 そして私が今行っているだろう患者さんの穿刺からの透析スタートまでの間に、ベテラン陣が代わって穿刺をする事はなかった。

 皆が次々と田中さんのベッドを飛ばして先へ行く。

 当然田中さんの機嫌も駄々下がりになるのは当然で、しかし私までもがそれに倣って逃げる事は許されない雰囲気満載なのはきっと田中さん自身の持つ強面なのとまたあちらの世界の方である事、それから穿刺しにくい血管をお持ちだったのも含まれるのだろうね。

 そんな中私は早くも一度目の穿刺で見事に失敗をしてしまった。

「ごめんなさい。失敗をしてしまって。もし宜しければですよ、止血が済めば他のベテランさんと交代しましょうか」

 圧迫止血を行いながら私は田中さんへと謝罪する。
 そこは勿論怒られるのを覚悟して――――だがしかし……。

「いやええよ。止血終わったらあんたが、桃園さんが刺してくれたらええ」
「いいん? 私はまだそんなに上手くないけれどいいの?」
「いいも悪いも刺さなあかんやろ。それにあいつらは失敗してもよう謝りもしよらへん。訳のわからん事ばかり、俺の血管が悪いとか色々言いよってからに……。あいつらにされるんやったらあんたの方がええわ」
「……おおきに、出来るだけ失敗せん様に頑張るわ」

 頼りないけれども頼りにと言うか、必要だと思われている様で私は素直に嬉しかった。
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