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第六章 壊れ失うもの
6 クスクスと無視
しおりを挟むクスクスと何処か小馬鹿にした様で且つ完全に相手を見下した嗤い。
それは土山さんが退職してから始まった。
派遣の鷲見山さんと桜井さんの二人は単独若しくは二人揃って私を見ればである。
何故かされている側に向けその様な態度と嗤いをする。
そして何度も言おう。
私は彼女達を敵視した覚えもなければ危害を全く加えてはいない。
小馬鹿にもしてはいないし、抑々である。
私は母より他人様へその様に屈辱を与える様な態度を取ってはいけないと躾けられれば、大人となった私自身もその経緯はどうであれ准看護師と言う職の立場上……いやいや譬えどの様な仕事であろうともである。
他人を貶める行為をしてはいけない。
それなのにである。
季節が変わり冬ともなればその態度は顕著となり、透析センターにおいて忙しさは年中変わらない中でである。
そして何故か彼女達は気が付けは何時も二人一緒にいる事が多い。
別に二人を監視している訳ではない。
先ず第一私に監視を行える程の暇な時間何てモノは存在しない。
それは受け持ちまたはリーダーであったとしてもである。
ただ彼女達二人の存在が何時の間にか私の視界の中へ、まるで態と私へ気付かせる様に、そうして私が彼女達の存在に気づけばクスクスとこちらを見て何かを囁きながら嗤うのである。
また12月の中程にもなればそこへ藤沢さんまでもが参加をしていると言う現実が追加されていく。
この頃になれば私の心はそれまでもだが、かなり疲弊していたと思う。
毎日毎日理由もなく蔑まれ、怒鳴り声に近い声で私へマウントを取ってくる。
「桃園さん!! 今日は何人刺したの。私なんて六人だよ!! ほんとに桃園さんがもっと早く刺さないから私達へ負担が来るんだよ!!」
何でなのだろう。
ただの派遣で、それも透析看護の経験が五年あると言うだけの鷲見山さんにここまで上から目線で言われなければいけない?
そしてそれを肯定するかの様に周囲のスタッフは誰一人として咎めようとはしない。
看護部長も。
藤沢さんや他のスタッフ……と言ってもだ。
MEの男の子達に止める術なんてないだろう。
そう彼女達の暴言とその態度を変えられるのはただ一人――――看護部長しかいない!!
それなのにまさかの放置。
見て見ぬふり。
――――無視だった。
まるで自分は何も関係のない一スタッフで、変な事に巻き込まないで欲しいオーラを放っていたのである。
それにこのやり取りは勿論透析を受ける患者さんには全部聞こえているし当然この様子を見てもいる。
そんな居た堪れない空気の中で貶められていく私がいる。
理由が全くわからない。
でも衆目の中での弄りは嫌だし恥ずかしい……止めて欲しかった!!
だけど絶対に苛めだと認めたくはなかった。
もしこの場で泣いたり怒鳴り返していればまた状況は変わったのだろうか。
それはわからない。
だって私は苛めを認めたくはないし第一屈服するのも嫌だった。
だから私は泣き出したいくらい悔しくて腹立たしくて、理不尽な物言いに何度手を上げそうになったのかもしれない。
それでも私は只管、そう只管冗談っぽく笑って否定をしつつ様々な想いと一緒に毎日押し流し続けたのである。
そうしてもっと仕事が出来る様にならなければいけない!!
仕事が出来ないからいけないのだろうと、その想いが益々自分自身を追い込むなんて全く気付く事もなく、そうしなければいけないと自己暗示にも似た頑固なまでに思い続ける事で今の自分を奮い立たせていたのである。
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