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序章
ありがとうそしてごめんなさい
しおりを挟む令和三年一月二十日午前4:16――――。
「ふう……」
母の人生においての最期の息をゆっくりと最後まで吐き出した稜ちゃんは静かに呼吸が停止した。
「ママ、ママ、っママ!!」
「ママさん、稜ちゃんっっ」
「――――……」
私の、私達三姉弟の最愛の母であり稜ちゃんは七十年の長いようでとても短い生涯を終えた。
真面目を絵に描いた様な女性だった。
時折真面目過ぎる所に融通も利かなくて嫌だと思う時も多々あった。
それでもだ。
母の愛は実に偉大である。
少なくとも私は母の愛亡くしては今この世には存在しなかっただろう。
職場で鬱を発症させ、当時結婚していた夫は看護へ無関心を貫けばだ。
母の目の前で私を放置するやろうな……と堂々宣言してくれたのである。
まあその言葉通り夫は私が鬱を発症してもほぼほぼ寄り添ってはくれなかった。
暗闇へ堕ち続ける私の手を放してくれなかったのは母の温かい手だ。
勿論弟妹達も必死に寄り添ってくれてはいるがやはり母の愛に勝るものはない。
残る自身の命の全てを使い切る様に、そして私の代わりとでも言わんばかりに少しずつ元気になる私と比例するかの様に母は病床へと臥してしまった。
どうすれば私は母に救われた恩返しが出来るのだろう。
一体何をすれば彼女の想いに応えられるのだろうか。
毎日仏前へ手を合わせて声を掛ける。
今は亡き母へ、私は貴女以上に素晴らしい愛情を持つ存在を知らない。
親孝行らしい事を何一つ出来ないまま旅立たせてしまってごめんね。
ありがとうって何度お礼を言っても言い足りない。
何時の日か私が旅立つ順番が来て、向こうの世界で再会出来た時は目一杯親孝行するからね。
ありがとうそしてごめんなさい。
苦労を沢山負わせてしまって。
でも再会した時は出来れば笑顔で会おうね。
久しぶりやからってお小言は言わないでね。
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