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第五章 じわじわと
16 看護部長にとってどうでもいい話
しおりを挟む看護部長と私は同じ年齢だと知ったのは丁度この頃だった。
別に同じ年齢がどうしたのかと言う訳でもない。
ただこの時の私もだが、沢山努力して看護部長職にまで上り詰めたこの人もまためっちゃ疲れた表情をしていた。
まあその理由はわからなくも……ない。
直接、話しをする機会は約一年間私がこの病院へ勤めている間に二人で話したのはほんの数回。
然も勤め始めた前半が多かったと思う。
私が後半様々な事で思い悩み何度も助けを求めたと言うのにである。
看護部長は口先ばかりで結局最後まで応じる事はなかったのだからね。
また何時も表情の明るくはない看護部長は本当の所、きっと他の誰よりもこの異常な看護体制を改革したかったのだと私は思ったと言うかそう捉えていた。
何故なら私がリーダーをする様になる前よりちょっとした雑談の合間に必ず彼女が言葉として発していた文言があった。
『うん、このままじゃあいけないよね。ちゃんとこの状況を変えていかへんとな』
きっとそれは看護部長なりに准看護師が仕切るこの看護体制の異常さを一刻も早く改革したかったのだろうね。
だから私がリーダーとなり皆が平等に意見を言えるカンファレンスを行う事もちゃんと最初は賛成をしてくれた。
うんそこはね、新しい事を試みる時は誰かさんとは違い私はきちんと上へお伺いを立てましたよ。
そして看護部長が賛成をしてくれたからこその新しいカンファレンスの形を私は模索したのである。
だが蓋を開けてみれば――――だ。
藤沢さん側へと擦り寄った派遣の二人は私の言う事を全く聞こうともしないどころか何もかもが常に反抗的だった。
まあそこは私はしがない一介の准看護師ですからね。
派遣ではなく常勤と言えども透析看護の経験はこのセンターで働く看護師の中で一番浅いのも事実。
年齢を幾ら重ねていたとしてもこの世界で経験に勝るものはない。
看護師と言う仕事はぶっちゃけ職人なのである。
看護の腕があって初めて一人前の看護師として認められるのだ。
そう幾ら、譬えどの様に立派な資格があろうともである。
確かに表向きは資格に応じたそれなりの対応はされるだろうがしかし、一度裏へと回れば仕事の出来ない人間はあっと言う間に仲間から爪弾きにされてしまう。
笑顔の優しい白衣の天使。
それは優雅に湖を泳いでいる白鳥の表の姿そのもので、優しげに微笑むその裏で私達は日々看護技術を切磋琢磨し、足を必死にバタつかせながら溺れない様に、ミスを犯す事なく完璧な看護を求められればそれへと応じられるようにしているのだ。
実際私も必死にこの病院で死に物狂いで頑張ってきた。
誰に何を言われ様とも、毎日仕事が終わればトイレの中でぼーっとしつつもまだまだ自分の頑張りが足りないのだと反省ばかりをしていた。
自分の力不足、もっとがっつりと仕事と向き合わなければいけないと、何処か強迫観念めいた感じで思いそれを実行していたのである。
仕事さえ、任されたリーダーをきちんとこなし託された理由は全く理解出来ないけれどもである。
准看護師の私がスタッフをちゃんと纏め上げなければいけないのだと焦れば焦る程である。
結果日が経つにつれ上手くいかない仕事もだが、あの二人のお蔭でカンファレンスも思うように進まず、質問を投げかけても返ってくる声の殆どがあの二人の私への言葉を完全に否定するものばかり。
やはり何の権限も力すらない者の言葉何て一体誰が重きを置き、そして賛同してくれると言うのだろう。
それなのにである。
そんなカンファレンスの様子を見た看護部長は私へ助言するのではなく、更にもっとスタッフをきちんと纏めろと、まるで今まで頑張ってきた私の努力何てどうでもいいと言わんばかりな物言いで藤沢さんとはまた違う圧力を掛けてくるのである。
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