61 / 130
第五章 じわじわと
11 板挟み
しおりを挟む「あのっ、部長お話したい事がっっ」
私は鬱を発症するまでに一体何度この人へ助けを求めた事だろう。
そう今の私では到底……いや絶対に解決出来ないものばかりだったからこその救いを求め、悲痛な叫びだったのにも拘らずである。
「ああ、うん話をしような。時間を作って今度ゆっくり話をしよう」
なのに看護部長は何時も、そう一言一句違う事無く私に次への期待を抱かせたまま、結局鬱を発症するまでに一度も話し合う事はなかった。
一准看護師である私ですら看護部長自身が毎日多忙を極めている事を十分過ぎる程に理解はしている。
中規模サイズの病院とは言えである。
そこはこの病院の全看護スタッフを取り纏める看護部長。
規模の大きさはあるけれど色々と忙しいのは理解をしていた。
また純粋に看護部長としての業務だけではなくほぼほぼ毎日数時間も透析センターでの業務に時間を拘束されてもいるのだ。
そこが普通とはあり得ない。
ほぼ毎日Bチームの穿刺が終わればAチームで受け持ちをしている姿を見る時もある。
だから十分忙しいのをわかっていた。
そして理解をしていてもである。
私の内に秘められた訳の分からないものが日を追う毎に大きく育ってしまう。
それは理解し難い様々な業務からの分かり合う事の出来ない人間関係。
負のストレスと言うものは私の心の中でパンパンに膨れ上がった今にも破裂しそうな時限爆弾付きの風船そのものだった。
とは言えこれは八年経った今だからこそ、それだけの時間が経過したからこそ当時の心情を何となくだが理解出来たと思う。
何故ならこれらの負のストレスで押し潰されそうになっていたと言うのにも拘らず、当の私はそんな状態ですらも全く気づいてはいなかったのである。
そう気がついてはいない。
つまりは認識が出来てはいない。
そんな状態の中でほぼほぼ無意識に助けを求め追い縋ったのが看護部長との対話だったのである。
今は、今日は無理でもまた次の機会がある!!
一体何処まで追い詰められていたのだろうか。
そしてそこまで追い縋らなければ自分自身の理性が保てなかった。
それなのに彼女は――――。
『リーダーはな、スタッフ全員を纏めるのも仕事なんや。桃園さんもリーダーなんやからちゃんとスタッフ全員を纏めてや、頼むで』
何故?
どうして?
訳が分からない。
直ぐには理解なんて出来ない……けれども私は――――。
『はい、わかりました』
ちゃんと理解を出来ないままに返事をしてしまう私がいた。
この病院、少なくとも透析センターは他の病院のリーダーとは少し違う。
確かにリーダー業務の中にスタッフを纏めるのもありと言えばアリである。
だがそれは普通に師長や主任がいてのリーダー。
その日一日だけ、そう限定的で最後の責任は師長にある。
とは言え全く責任を取らないと言う訳ではない。
だがリーダーの背後にはちゃんと師長や主任がいる。
その日一日を無難に纏めるのがリーダであり、後日師長達にもわかるよう管理日誌への記載や重要な事はメモとして残したり、次の日に口頭で報告を行うもの。
抑々今の時代において准看護師がリーダーを行う病院は決して多くはないだろう。
先ずリーダーとは主任若しくは正看護師が行うもの。
中にはやむを得ず准看護師がリーダーを行う事もあるだろう。
そう、准看護師がリーダーを行うと言うのはそんな状況下においてのものなのだ。
一般社会で言えば平の社員がある日突然それも行き成り重役業務をしろと言われてもだ。
そこは普通に無理があり土台出来ないものなのである。
それなのにこの透析センターのリーダーの背後には師長の代わりに看護部長……兼任しているからと言うけれど、部長の行う仕事は責任者の行うモノではなく普通にスタッフの中の一人としての仕事。
ただ単に人手不足だから仕方がないのかもしれない。
でもだからと言って一准看護師が何の役職もなく、また何の権限すらもないのに毎日リーダーからの責任を持つ又はスタッフを纏めるって一体何なの。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる