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第五章 じわじわと
9 出前⁉ Ⅱ
しおりを挟む「ちょっと一体どうな――――⁉」
勢いよく休憩室の扉を開ければである。
それと同時に嫌な予想程よく当たると言うもので……。
「えー何って、お昼ご飯食べてるんだけれど」
何て事のないと言うか、まるでそれを問い掛ける私の方が可笑しいと言わんばかりの返事が返ってきた。
いやいや何て事なんかじゃあない!!
この現状はめっちゃあり得ない事なのよっっ。
そう、何故三人しかいない看護師が休憩室で雁首並べてと言うか、向かい合ってうどんを啜っている!!
然もめっちゃ普通然としている態度が本当に信じられなかった。
透析も終盤へと差し掛かれば患者さん全員の内何人かは血圧が下がり始める事も私以上にこの三人はわかっている筈。
また意識レベルの低下だってなくはない。
なのにっ、どうして――――。
「……何でフロアーに看護師がいいひんの。何で全員がここで休憩しているん」
沸々と、どうしようのない怒りめいたものが込み上げてくる。
「だってー、出前が来たんやもん」
「そうそう後になったら伸びて美味しくないしね」
「うんうん」
頷きながらうどんを啜るんじゃあない!!
一体何なんこの人達。
ほんまに看護師免許を持っているん?
普通にあり得ない、なのに理解不能な宇宙語を言いつつまだうどんを美味しそうに啜っていたりする。
「兎に角フロアーに一人出て!! そのくらい常識やろっ」
語気は何時もより強くそして感情的に言ってしまった。
感情的になっても仕方がないと思いつつも、でも……。
私はそう言って扉を閉めようとすれば――――。
「フロアーに看護師が必要なんやったら桃園さんが行けばいいじゃん」
「あ、いいねそれ」
「うんうん、だってうちら休憩中やもんな」
「はあ? あんた達……」
こっちはリーダー業務でひいひい悲鳴を上げながら仕事をしていると言うのにである。
とは言え三人?の宇宙人は一向に腰を上げようとはしない。
その態度に怒りを通り越し呆れるばかり。
だが現実に今フロアーに看護師がいない事の方が大事なのである。
私はそれ以上何も言わず扉を閉めればそのままフロアーへと出て行き、MEの男の子達へ声を掛ける。
「今ん所変わりはない?」
「大丈夫です」
そう返事が返ってきてほっとするけれどもである。
手前の奥にいる川島さんと言う患者さんはこの時間に決まって血圧が下がったり、偶に意識が低下し緊急返血を行う常連さんでもあるのだ。
何しろこの川島さんは本当に果物が大好物な女性で、とある日には前日に大きな西瓜を1/2個をぺろりと食べてしまったと、笑ってカミングアウトをされたのはまだまだ記憶に新しい。
そしてその猛者さんは採血の結果カリウムが異常に上昇してしまい、何時心臓が止まっても可笑しくはないとDrよりこっ酷く叱られ、暫くの間野菜と果物現金生活を強いられた猛者中の猛者である。
「川島さんお変わりはないですか」
近づきながら声を掛ける。
「ああ、桃園さんか。アンタ最近私の所へ中々来てくれへんさかいに寂しかったんえ」
川島さんは今日は余裕があるのか、笑顔でそう返答をしてくれた。
私も川島さんのキャラが好きだから出来れば毎回受け持ちをしたかったけれどもである。
川島さんだけでなくフロアーへ来なかったのは単にリーダーで死にそうになりながら仕事をしていたからだとは流石に言えない。
「そう言って貰えて嬉しいですよ。じゃあ血圧測りましょうね。もし血圧が下がり始めたらお薬飲まないと……ね」
軽く冗談を言いつつマンシェットを彼女の腕へと巻き始める。
「もう敵わんなぁ桃園――――」
「――――っっ⁉ 川島さん!! 川島さん!!」
偶の日にぶち当たってしまった。
そう笑って私へ話し掛けながら川島さんは一瞬にして意識を失ってしまったのである。
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