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第五章 じわじわと
6 持ち帰るお弁当
しおりを挟む毎朝8時頃には透析センターへ入れば退勤するのは早くて19時、遅い時は20時30分くらいの日々が繰り返される。
雇用契約上では勤務時間は午前8時30分から17時まで。
その間に午前と午後に15分、お昼休憩は45分だった……筈。
確かに現在フロアーで患者さんを受け持つスタッフ達は契約通りの休憩が取れてはいる。
お互いに声を掛け合い、勤務改善されている所は素直に嬉しい。
そんなスタッフとは違いリーダーは常に色々な意味で孤独なのである。
まあ良い意味で捉えれば、そこは決められた時間ではなく自分の都合の良い時に休憩が取れる。
しかしそれはあくまでも自分の抱える仕事を片しつつ、また透析全体がトラブルなく行えている時に限られている。
そして私はリーダーを行う様になってからと言うもの、ほぼほぼ休憩らしい休憩を取れてはいない。
先ずマニュアルなしの業務に加えてこれまでの、そう藤沢さんを含めこれまでリーダーを行っていた人達は皆それぞれ独自のルールに則って業務をこなしていたらしい。
そうこれも最近になって漸く気付く事の出来た事実であり現実だった。
もう本当に、それこそリーダーが態々しなくてもいいだろうと思える様な業務一つにしてもである。
何故か各々微妙にやり方が異なっているのだ。
そしてその結果教えられた通りに私が行えば、当然それらを見る人……つまりは藤沢さん。
何処とは言わないけれども何か彼女のお気に召さない点があれば――――。
『誰に教えて貰ったん?』
勿論私は通常仕様とばかりに笑って誤魔化してはいる。
だがそれもリーダーをひと月以上もこなせばである。
最終的に仕事が出来ていればいいやん!!
最初から統一した看護をしてこなかった癖に粗探し的な文句ばかり言わんといて!!
とまあ流石の私も心の中で叫んではいるのだが同時にこうも思ってしまうのだ。
もっと、そうもっと早く私自身が仕事を頑張って覚えなければいけない。
努力して、頑張って仕事を覚えて、誰からも後ろ指を指されないくらいにリーダー業務を覚えなければ――――!!
それが自分自身を更に追い詰めているとは全く考えず、私は必死にそう何かにしがみ付きながら文句も言わずに、にこにこと笑いつつ馬鹿みたいに仕事と真面目に向き合っていた。
その結果午前と午後の休憩は勿論満足に取る事も出来ず、偶に喉がカラカラとなって堪らず休憩室へと駆け込めば、立ったままゴクゴクと持ってきていたお茶を飲み喉を潤せばまた仕事へと戻っていく。
またお昼の休憩も然りである。
45分の休憩……そんなもの取れよう筈もなくまあ上手く取れたとして10~15分、時には全く食事の出来ない日々も少なくはない。
そんな状態なのに誰も何も声を掛けてはくれない。
と言うかである。
まるでそれが普通だと言う空気感が益々私の精神を雁字搦めにしていくのだ。
特に月・水・金曜日は3クールの透析。
おまけに2クール目の穿刺が終わり一通りフロアーの仕事が落ち着いた頃にはカンファレンスも行わなくてはいけない。
月二回の採血の時は何時も以上にDrからの指示も多く出る。
なのに1クール目が終わり透析の記録用紙が回収されればである。
記載漏れがないかをチェックしてからの、それらを全て電子カルテへ入力するのもリーダー業務へ組み込まれてもいた。
兎に角直接リーダーに関係のない雑務が多過ぎて、息をつく暇もない状態。
時間と仕事へ追われに追われて座る事もなく立ったまま、朝からぶっ続けの12時間以上の勤務で両足は浮腫んでボンボンに腫れてはいるし、精神は毎日何かにつけてガリガリと音を立てて削られている。
そうして気が付けば私はお昼に食べるべきお弁当をそのまま自宅へ持ち帰る日が自然と増えていった。
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