【完結】希望 ~差し伸べられたのは貴方の魂の光でした

Hinaki

文字の大きさ
上 下
56 / 130
第五章  じわじわと

6  持ち帰るお弁当

しおりを挟む


 毎朝8時頃には透析センターへ入れば退勤するのは早くて19時、遅い時は20時30分くらいの日々が繰り返される。


 雇用契約上では勤務時間は午前8時30分から17時まで。
 その間に午前と午後に15分、お昼休憩は45分だった……筈。

 確かに現在フロアーで患者さんを受け持つスタッフ達は契約通りの休憩が取れてはいる。
 お互いに声を掛け合い、勤務改善されている所は素直に嬉しい。

 そんなスタッフとは違いリーダーは常に色々な意味で孤独なのである。

 まあ良い意味で捉えれば、そこは決められた時間ではなく自分の都合の良い時に休憩が取れる。
 しかしそれはあくまでも自分の抱える仕事を片しつつ、また透析全体がトラブルなく行えている時に限られている。

 そして私はリーダーを行う様になってからと言うもの、ほぼほぼ休憩らしい休憩を取れてはいない。
 

 先ずマニュアルなしの業務に加えてこれまでの、そう藤沢さんを含めこれまでリーダーを行っていた人達は皆それぞれ独自のルールに則って業務をこなしていたらしい。

 そうこれも最近になってようやく気付く事の出来た事実であり現実だった。

 もう本当に、それこそリーダーが態々しなくてもいいだろうと思える様な業務一つにしてもである。
 何故か各々微妙にやり方が異なっているのだ。

 そしてその結果教えられた通りに私が行えば、当然それらを見る人……つまりは藤沢さん。
 何処とは言わないけれども何か彼女のお気に召さない点があれば――――。

『誰に教えて貰ったん?』

 勿論私は通常仕様とばかりに笑って誤魔化してはいる。
 だがそれもリーダーをひと月以上もこなせばである。

 最終的に仕事が出来ていればいいやん!!

 最初から統一した看護をしてこなかった癖に粗探し的な文句ばかり言わんといて!!

 とまあ流石の私も心の中で叫んではいるのだが同時にこうも思ってしまうのだ。

 もっと、そうもっと早く私自身が仕事を頑張って覚えなければいけない。
 努力して、頑張って仕事を覚えて、誰からも後ろ指を指されないくらいにリーダー業務を覚えなければ――――!!


 それが自分自身を更に追い詰めているとは全く考えず、私は必死にそう何かにしがみ付きながら文句も言わずに、にこにこと笑いつつ馬鹿みたいに仕事と真面目に向き合っていた。

 その結果午前と午後の休憩は勿論満足に取る事も出来ず、偶に喉がカラカラとなって堪らず休憩室へと駆け込めば、立ったままゴクゴクと持ってきていたお茶を飲み喉を潤せばまた仕事へと戻っていく。

 またお昼の休憩も然りである。
 45分の休憩……そんなもの取れよう筈もなくまあ上手く取れたとして10~15分、時には全く食事の出来ない日々も少なくはない。

 そんな状態なのに誰も何も声を掛けてはくれない。
 
 と言うかである。
 まるでそれが普通だと言う空気感が益々私の精神を雁字搦めにしていくのだ。
 

 特に月・水・金曜日は3クールの透析。
 おまけに2クール目の穿刺が終わり一通りフロアーの仕事が落ち着いた頃にはカンファレンスも行わなくてはいけない。

 月二回の採血の時は何時も以上にDrからの指示も多く出る。
 なのに1クール目が終わり透析の記録用紙が回収されればである。
 記載漏れがないかをチェックしてからの、それらを全て電子カルテへ入力するのもリーダー業務へ組み込まれてもいた。

 兎に角直接リーダーに関係のない雑務が多過ぎて、息をつく暇もない状態。

 時間と仕事へ追われに追われて座る事もなく立ったまま、朝からぶっ続けの12時間以上の勤務で両足は浮腫んでボンボンに腫れてはいるし、精神は毎日何かにつけてガリガリと音を立てて削られている。

 そうして気が付けば私はお昼に食べるべきお弁当をそのまま自宅へ持ち帰る日が自然と増えていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【猫画像あり】島猫たちのエピソード

BIRD
エッセイ・ノンフィクション
1作品あたりの画像の枚数上限(400枚)に達したため、こちらは完結。 【島猫たちのエピソード2025】を新たにスタートします。 石垣島は野良猫がとても多い島。 2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。 「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。 でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。 もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。 本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。 スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。

日々徒然日記

克全
エッセイ・ノンフィクション
 自分の小説を、自力で10冊プリントオンデマンド本と電子書籍にしました。現在日本アマゾンとアメリカアマゾンを中心に販売していますが、その経過と日々感じた事を書いて行こうと思います。

王妃の鑑

ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。 これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話

トランスジェンダー

夏目碧央
現代文学
会社のトイレで気を失っていた望月渚は、目が覚めると男になっていた!ミニスカートにハイヒール、長い髪に濃いメイクをしていた渚はパニック。逃げるようにして帰宅し、翌日服を買いに行く。すると、周りの反応が・・・。最後にはどんでん返しが!

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

【アーカイブ】 大好評短編集 後書き付き

Grisly
現代文学
1分で読めます! これまで、投稿した作品の中から、 特にお気に入りの多かった物、 また感想の多かった物をまとめてみました。 是非⭐︎をつけ、何度もお楽しみ下さい。

【完結】彼女が本当に得難い人だったなんて、後から気づいたってもう遅いんだよ。

すだもみぢ
現代文学
テーマは「本当のこと」 数年ぶりに再会した過去の恋人同士。お互いもういい大人になっている。 「昔、会社が倒産しそうだと言ったのを覚えているか? あれ、嘘だったんだよ」  そう過去の真実を告白した男に対して、女は静かに唇を開いた。 「知ってたわ。その上で別れを受け入れることに決めたの――」 何を思って男は女にその言葉を告げたのか。 そして女はどうしてその言葉の嘘を暴かなかったのか。 その裏にあったこととはなんだろうか。 過去の恋人たち二人のやりとりを、第三者視点綴っています。 2023/3/27 現代文学部門1位ありがとうございました<(_ _)> 2023/3/31 加筆修正いたしました。

処理中です...