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第三章 疑問
4 疑問 Ⅳ
しおりを挟む疑問に思ったのはそれだけではない。
最初は色々ここがぶっ飛び過ぎて気づかなかったと言うかわからなかった。
そして何時の頃からだろう。
毎日クタクタになるまで働いて、C棟の5階にある更衣室で着替えを済ませて二階へ降りた所にある臨床検査室。
何気にその扉の上の端に掲げてある責任者の名前。
土井 剛
最初は何もと言うか、別に見る心算さえもなかったのだ。
そう定期的な心電図検査はMEの子達がしてくれるし、月二回の採血の検査くらい?
その検体もMEの子達が気を利かせて何時も持って行ってくれたから、透析センターの下っ端の私との接点は今の所特になし――――って感じかな。
疲れているから何気に視界に入っていた……程度のモノだった。
でも接点がないと思っていたのは私の勝手な判断だったのである。
この透析センターの雰囲気は入職当時より全体的にめっちゃ暗く重苦しい。
常にどんよりとした空気の分厚い層が何とも言えない。
きっと24時間毎日この空間で生活すれば間違いなく病気になれる自信はある!!
そう思わせる様な場所だった。
一番の原因は多分ドンである藤沢さん。
二番目は名前は……と言うよりも色黒で強面の、身長は170㎝あるかないか。
でも背の高さは問題ではない!!
そう、彼の纏う空気そのものが非常に重苦しく傍にいれば窒息しそうなくらいしんどいのである。
外界と隔絶された透析センター故なのか、そこは決して大きな声で彼は怒鳴る事はしない。
でも小声だけれども時折恫喝めいた、まるで地を這う様な低い声でMEの子を注意する姿はめっちゃ怖い。
自分と自分の認めた者とそれ以外は屑――――判定しているようにも思えてしまう。
因みに私は彼の判定では間違いなく屑だろう。
穿刺の時はMEの子若しくはベテランの藤沢さんか、正看護師の古川さんや赤井さんと組んでいる。
私は絶対に無理と言うか、抑々その対象にもならなかったのは正直に言ってとても有り難かった。
ただでさえ緊張すると言うのにだ。
ヤクザ屋さん顔負けの強面お兄さんに睨み……いやいや観察されるのは恐怖でしかない。
だから敢えて名前と言うかお互い話も振らず……ただ挨拶はちゃんと行っていた。
しかしその相手からは何の返事もない。
もしかすればこの病院で接遇やマナーを問うだけ無駄なのかもしれない。
何故なら擦れ違い様に挨拶をしても返してくれる人は然程多くはない。
何処の病院でも『お疲れ様です』と挨拶をすれば普通に『お疲れ様です』と返してくれた。
何時もの何気ない挨拶だったけれどもだ。
その挨拶の大切さを思い知らされてしまう。
当り前の挨拶。
高が挨拶されど挨拶――――だ。
礼に始まり礼に終わる。
普通だった事が普通ではない非日常が今の私の日常。
土山さんが入ってくれて非日常だった毎日が少しずつ日常へと戻ろうとしていた。
そんな頃だった。
あの強面の人物は臨床工学技士なのだと思っていたのにまさかの臨床検査技師だったと知ったのは……。
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