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第三章  疑問

2  疑問 Ⅱ

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「古川さん、ちゃんと言い返さないと。古川さんと赤井さんは正看護師なんだから、本当だったら私達准看護師を指示する側じゃあ……」
「うん、ありがと。でもねぇ僕はここしか知らないから仕方がないかなぁ」
「私は……別にどうでもいいです」

 これは土山さんが赴任する前の休憩室での会話である。
 偶々、そう本当に偶々お昼休みの休憩時間のほんのひと時、私達三人だけになった時だった。

 表立って流石にドンである藤沢さんに意見をまだ言えない私だが、それでも准看護師が正看護師を蔑ろにするだけでなくその権利を侵害してはいけないと思っていたのである。


 今まで京都の病院を幾つも転々と働いてきた私でもである。
 正准看護師の力関係が完全に逆転しているのはこのN病院が初めてだった。
 
 まあ幾ら正看護師と准看護師、資格に差はあるとは言え仕事の出来る出来ないは今までの病院でもあった。
 正看護師にも拘らずこんな事も出来ないのかと、判断すらも出来ないのって思った事もなくはない。
 この正看護師に任せていると間違いなく患者さんは急変若しくは死んでしまうと思った場面も少なくはなかった。

 その反面この人が本当に私と同じ准看護師なのって思う程に看護師としての腕も然る事ながらその考え方もめっちゃ尊敬出来る人物も間違いなく存在する訳で、二十年間この仕事に従事していれば色々と考えさせられる事もあったりする。

 そう給料面は特に考えさせられるものの一つだった。

 私自身完璧な看護師と言う訳ではない。
 何故なら私の出来る事はとても小さなものなのだ。
 ただ私の看護観と言うか考え方と言うものは――――。

 

 

 ただそれだけ。
 何事も絶対と言うものは存在しない。

 だからミスは発生する。
 でも私達は命と向き合う仕事だから、可能な限りそのミスを発生させないようにする。

 私の出来る事はそれだけなのだ。
 もう随分昔になるけれど仕事の出来ない正看護師がうっかりミスで患者さんを介助中に骨折させてしまったり、点滴すらも上手く針を刺せないのを見る度考えない様にしようとしてもつい考えてしまったりする。

『あー、この人よりも私って給料が少ないんだよなぁ』

 何故なら白衣の天使だってちゃんと血の通った人間なのである。
 良い面もあれば悪い事も考える。
 だって当時の私はほぼほぼその正看護師のフォローをしていたのだ。

 それに白衣を着ていれば患者さんにとって皆同じ看護師である。

 資格が違うだけで同じ仕事なのだとここへ来るまでに何度も思っていたものである。
 だがこのN病院は根底から全く違ったというか、私の考えている次元が完全に異なっていたのである。

 でも最初からではなかったと私は思う。
 何故なら……。
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