20 / 130
第二章 悪夢への分岐点?
3 面接 Ⅲ
しおりを挟む初めての透析。
若干緊張しながらも普通の日勤とは違い1時間早く出勤しなければいけない。
所謂早出出勤。
理由は透析を行う前に血液を浄化する為のチューブやダイアライザーと呼ばれる器材へ生理食塩水で満たす為である。
そうほんの少しの空気でも混入する事無くしっかりと満たさなければいけない。
もし空気がチューブの何処かで溜まりそれが直接患者さんの身体の中へと入ってしまえば、空気塞栓を起こしてしまう可能性だってあるのだ。
勿論ごく少量なら問題はない。
でも透析患者にとってそのごく少量でも許されないのである。
その他透析を動かす為の機械のチェックに終了前に注入する抗凝固剤や患者さん個人個人に必要な薬剤の点検。
S病院の透析は二十台。
受け入れ患者さんは19名。
その一台一台の機械のチャックはシングルでなく必ずトラブル回避の為ダブルで行う。
そうして準備作業をしていればあっと言う間に時間は流れ気が付けば患者さん入室迄ほんの僅か。
慌てて申し送りをすれば入室時間となり体重測定を済ませた患者さんは自分達の指示されたベッドへと向かう。
私達はそんな患者さんの情報収集をしながらDWまでの計算をし機械へ透析の情報を入力する。
因みにDWとは簡単に説明すると身体の中に余分な水分が溜まっていない時の体重で、基本透析終了時の体重の事を言う。
腎臓を病んでおられる患者さんが透析を受ける頃になると排尿は殆ど認められない。
そうなると口から入ったモノを、特に水分を体外へ出す手段がなくなる。
まあそこはただ単に水分だけではないのだけれどね。
簡単に言えばDWより増えた分を透析で時間を掛けて抜くのである。
当然人工的に行うのだから危険はつきものである。
それでも生きていく為には必要な処置なのだ。
話は戻り透析の前に穿刺をしチューブに接続後問題なければ初めて透析が開始となる。
その後は一時間おきに血圧などのチェックを行う。
ネットや参考書で読んだものは透析中に足のケアや定期的な採血結果からの栄養指導やシャント管理にその他多岐に渡るものなのだが、S病院の透析センターには医師が常駐していない。
センターに常時いるのは看護師と臨床工学技士のみである。
勿論何かあれば直ぐに意思を呼べばいい……って問題でもないのだが、しかしこれがこの病院のやり方なのだ。
また医師が常駐していないから透析は本当に安全第一と言うか、途中で血圧低下が認められればECUMと言い血液中に含まれる水分をのみ引く、若しくは生理食塩水を100ml程加注し血圧の上昇が認められればそのまま、認められなければ即透析終了となる。
そこはちゃんと歩いて帰る事が出来る安定透析。
今までの病院は仕事が山の様にあって毎日忙殺されていた。
だがここは体力的にはとても楽な場所。
そして私語が多い。
一時間毎の血圧測定以外は様子を見ながら同僚とずっと喋っている。
この環境が何とも居た堪れない。
私語をするよりもパソコンを開きネットで透析について何か学びはないかとみていれば――――。
『勤務中は遊ばないでね』
どっちが⁉
どうやら私語は遊びではないらしい。
私にからすれば私語も立派な遊びなのだが……。
二、三ヶ月も務めれば作業はそれなりに覚えもする。
変わりのない毎日。
朝は早いけれどもその分16時30分には退勤が出来る。
給料も悪くない。
でも何か……物足りない。
そうして一年半が流れたある日私はもっと透析を学びたくてS病院を退社した。
勿論退社理由は一身上にしたのは言うまでもない。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………
ブラックベリィ
キャラ文芸
俺、神咲 和輝(かんざき かずき)は不幸のどん底に突き落とされました。
父親を失い、バイトもクビになって、早晩双子の妹、真奈と優奈を抱えてあわや路頭に………。そんな暗い未来陥る寸前に出会った少女の名は桜………。
そして、俺の新しいバイト先は決まったんだが………。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる