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第二章  悪夢への分岐点?

3  面接 Ⅲ

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 初めての透析。
 若干緊張しながらも普通の日勤とは違い1時間早く出勤しなければいけない。
 所謂早出出勤。


 理由は透析を行う前に血液を浄化する為のチューブやダイアライザーと呼ばれる器材へ生理食塩水で満たす為である。

 そうほんの少しの空気でも混入する事無くしっかりと満たさなければいけない。
 もし空気がチューブの何処かで溜まりそれが直接患者さんの身体の中へと入ってしまえば、空気塞栓を起こしてしまう可能性だってあるのだ。

 勿論ごく少量なら問題はない。

 でも透析患者にとってそのごく少量でも許されないのである。


 その他透析を動かす為の機械のチェックに終了前に注入する抗凝固剤や患者さん個人個人に必要な薬剤の点検。

 S病院の透析は二十台。
 受け入れ患者さんは19名。
 その一台一台の機械のチャックはシングルでなく必ずトラブル回避の為ダブルで行う。
 そうして準備作業をしていればあっと言う間に時間は流れ気が付けば患者さん入室迄ほんの僅か。
 
 慌てて申し送りをすれば入室時間となり体重測定を済ませた患者さんは自分達の指示されたベッドへと向かう。

 私達はそんな患者さんの情報収集をしながらDWドライウェイトまでの計算をし機械へ透析の情報を入力する。

 因みにDWとは簡単に説明すると身体の中に余分な水分が溜まっていない時の体重で、基本透析終了時の体重の事を言う。

 腎臓を病んでおられる患者さんが透析を受ける頃になると排尿は殆ど認められない。
 そうなると口から入ったモノを、特に水分を体外へ出す手段がなくなる。
 まあそこはただ単に水分だけではないのだけれどね。
 
 簡単に言えばDWより増えた分を透析で時間を掛けて抜くのである。
 当然人工的に行うのだから危険はつきものである。

 それでも生きていく為には必要な処置なのだ。

 話は戻り透析の前に穿刺をしチューブに接続後問題なければ初めて透析が開始となる。
 その後は一時間おきに血圧などのチェックを行う。


 ネットや参考書で読んだものは透析中に足のケアや定期的な採血結果からの栄養指導やシャント管理にその他多岐に渡るものなのだが、S病院の透析センターには医師が常駐していない。

 センターに常時いるのは看護師と臨床工学技士のみである。
 勿論何かあれば直ぐに意思を呼べばいい……って問題でもないのだが、しかしこれがこの病院のやり方なのだ。
 
 また医師が常駐していないから透析は本当に安全第一と言うか、途中で血圧低下が認められればECUMイーカムと言い血液中に含まれる水分をのみ引く、若しくは生理食塩水を100ml程加注し血圧の上昇が認められればそのまま、認められなければ即透析終了となる。

 そこはちゃんと歩いて帰る事が出来る安定透析。


 今までの病院は仕事が山の様にあって毎日忙殺されていた。
 だがここは体力的にはとても楽な場所。
 そして私語が多い。

 一時間毎の血圧測定以外は様子を見ながら同僚とずっと喋っている。
 
 この環境が何とも居た堪れない。
 私語をするよりもパソコンを開きネットで透析について何か学びはないかとみていれば――――。



 どっちが⁉
 どうやら私語は遊びではないらしい。
 私にからすれば私語も立派な遊びなのだが……。

 二、三ヶ月も務めれば作業はそれなりに覚えもする。
 

 変わりのない毎日。
 朝は早いけれどもその分16時30分には退勤が出来る。
 給料も悪くない。

 でも何か……物足りない。

 そうして一年半が流れたある日私はもっと透析を学びたくてS病院を退社した。

 勿論退社理由はにしたのは言うまでもない。
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