【完結】希望 ～差し伸べられたのは貴方の魂の光でした

第一章 鬱と診断されて安堵する精神状態

4 兎に角寝ましょうって眠れないから困っているんだよ

「このお薬を飲んでゆっくり寝ましょうね」
「あ、あの……」
「いいですね。何も考えずに兎に角ゆっくり寝ましょう」
「え……と」
「何も言わなくていいんですよ。このお薬を飲んで眠ればいいのですからね」
「い、あ、あの私……」
「ではお大事にして下さい。はいでは〇〇さんどうぞ――――」


　これがとあるビルの三階にあるSクリニックを開業している院長の診察内容である。

　私は問答無用とばかりにそこへ連れて来られれば暫くすると順番が着て名前を呼ばれ目の前の診察室へと向かう。
　そこで心配する母が一緒に入室しようとすればである。

「お母さんは外で待っていて下さい」

　笑顔で、やんわりとだがしっかりと入室を拒否する院長。
　まあ子供でもないし……何て思うのは今現在の心境だから言えるし思える事なのである。
　

　1月4日時点の私は心の中が凄まじくも実に表現し難いくらいの恐慌状態で、また情けない事に一人では何も判断が出来なかった。

　そして本来ならばあり得ないだろう心療内科の診察内容。

　心を病む患者さんの声を一切耳を傾ける事もなければだ。
　一方的に薬を処方し後はそれを飲んで眠れ――――って全く眠れないから連れて来られたのにだっっ。

　心の原因や何もかもを吐露させてくれる筈もなく、出口を求め彷徨う想いを抱えたままでのさようならは流石にないだろうと今ならば私自身そう判断も出来るのだが、この時の私はそれさえも全く判断出来ずにただ言われたまま診察室を後にした。

　因みにこの日の受診で診断されたのは鬱状態。

　診断書を出して貰いそれを病院へと郵送した。

　最初に処方された薬は向精神薬とハルシオン。

　案の定帰宅をし薬を飲んだところで状況は全く改善されれる事はなく、不眠状態はそれ以降も続いていく。
　当然食事は摂れないし、家族とも面と向かって顔はおろか視線すらも合わせられない。


　何故そうなのかと言う理由は全くわからない。

　ただ家族といや、人と目を、視線を合わせるのがめっちゃ怖かった。

　ほんの少しでも視線を合わせればだ。
　大声で叫ぶと共にその場より駆け足で逃げ出してしまいたくなる程の恐怖でしかなかった。

　そうしてトイレへ、そう寝室から出た時の私は偶然誰かが近づいてくる気配を察知すれば、相手が家族だと言うのにも拘らず何とか隠れてやり過ごす――――そんな不可思議な日常を送っていた。

　家族同士の話し声や笑い声すらも恐怖の対象でしかなかった。

　最悪だ――――何て考える気持ちは何処にもない。
　

　わかるのは自分自身を覆い尽くす程の真っ暗闇の恐怖。

　怖くて、本当に怖いと思うのに何故か逃げる事や排除する事さえも出来ない。

　そしてあの日より思考が停止と同時に私の中の時間が止まってしまった。　

　でもこの症状はまだまだ鬱の入り口に過ぎなかった。
　私が必死に探し求める出口は本当に遠くいや、現時点での私はまだ確実に出口へ辿り着いてはいないのかもしれない。