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第一章  鬱と診断されて安堵する精神状態

1  高が八年、されど八年

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『ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさ……い』

 私は一体何に、そして誰に対して謝罪をしているのだろう。
 そして何故私はずっと繰り返し謝り続けているのだろうか。

『ごめんなさい。もうしないから、ごめんなさい』


 全身をすっぽりと布団を被る事で外界よりシャットアウトしていた。
 いや少なくともこの時の私はと言うか私の心は視界に入る全てのモノを完全に拒絶していた。

 真冬の中日も既に落ちれば、暗い部屋に照明はおろか暖房すらもつけずしんしんと底冷えのする部屋の中で一人滂沱の涙を流しては、架空の存在に向けてずっと私は謝罪の言葉を繰り返す。

 帰宅したばかりとは言え当然常とは全く違う私の様子に夫や母に弟妹達も代わる代わる様子を見に来てくれていた。

 そこは家族として本心から心配してくれての事だったのだろう。

 だが私はそれらの一切を完全に拒否をした。
 


 こんな私へ声何て掛けてくれなくてもいい!!
 こんな私の為に態々わざわざ会いに来てくれなくてもいい!!
 お願いだから私を一人にしておいて欲しい。

 そして――――欲しい!!

 しかしそれらの全てを心の中で叫んではいても言葉として一言も発せられる事はない。

 正確に言えば血の繋がった家族に対しても声を発して普通に話す事が出来なかったのである。
 
 
 ただ皆一様に声を掛けてはくれるけれども当然の事ながら私からは返答なんて出来よう筈もなく……と言うか全ては泣きながら謝罪を繰り返すだけ。

 情けないが本当にそれだけしか出来なかった。


 照明をつけられる事も拒絶し、
 暖房すらも拒絶の意思を示した。

 こんな私と言う人間に何も必要ものは――――ない。


 今にして思えばどうしてそう、そこまで強く思い込んでしまったのだろう。

 恐らくこれは八年経った今だからこそなのかもしれない。

 あの時の心情を全て私自身が理解をしている訳ではない。
 また今現在完全に鬱を攻略出来ているのでもない。
 

 あれは日々繰り返されていた何気ない悪意に満ちた言葉と態度。

 私は自分自身がまだ透析看護を完全に熟知をしてはいない。
 自分が至らない故なのだと思い、一日でも早く全ての業務が滞りなく行える様にならなくてはいけないと思い込む事により敢えてそれらを気づかない体で仕事をしていた。

 それでもそれがほぼ毎日繰り返されるのは流石に辛くないと言えば嘘になる。

 とは言え周りにいる同僚達は加害者である桜井の行動を止める事もなければ否定する事もなかった。
 その事が結果桜井の放った言葉と態度よりも周りの態度そのものが無言の圧となり全てを肯定しているのだと、一番強く私の心を粉々に砕いてしまった原因だと思う。


 八年前は鬱の原因何てものの正体がはっきり言って何もわからなかった。
 いや、今現在もなのかもしれない。

 鬱になって高が八年、されど八年……である。


 世の中には直ぐ良くなられる状況の人もいれば私以上に苦しみ、時には死を選べば不運にもこの世と別れてしまった人も少なくはない。
 
 ただ私にとって幸運だったのは家族は勿論、一番私の鬱と向き合ってくれたのは夫ではなく実の母だった。

 急性期の頃は心が常に不安定のまま少しも落ち着く事もなく常に死にたいと、死にさえすれば全ては終わり楽になれる!!

 一体何を根拠にと思うのかもしれない。
 でも命を絶てさえすればこんな心の苦しみより肉体は解き放たれるのだと、何故あんなにも死へ執着したのか今となってはよくわからない。
 
 また今まで生きてきた中で特に大きな反抗期もなく母へ口答えする事も殆どなかった私がだ。
 鬱を患った事によりめっちゃ攻撃的な性格へと転じてしまった。

 常に苛々不安状態で落ち着かず何かの折に周りへ、私に一番寄り添ってくれた母へ怒鳴る日も少なくはなかった。
 我慢強く何時も私の傍にいてくれる母へ当たった所で何も問題は解決はしないと言うのに、今になって何であんなにも酷い態度をしてしまったのだろうと後悔ばかりしてしまう。

 でもあの頃の私はその後悔すら出来ない、嫌考える余裕すらない酷い状態だったのである。
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