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第二章
閑話 愛しいエルの為に Sideフローラ
しおりを挟む私にとってもエルは大切な娘であり姪。
確かに血は繋がってはおりません。
いえ、数代前へと遡ればそこは高位貴族特有の王家との姻戚関係と言うものがあり、大きな括りで言うならばエルは私の娘なのです。
『フローラ様、これ以上戯けた事を仰れば暫くの間エルを王宮へ伺候させませんわよ』
そ、そんなぁティーネ様ってば意地悪ですわ。
くすん、でもエルと引き離されるのは辛いので娘発言は取り消します。
とは言え王家の秘匿されし奇病については私も余り……いえ、陛下と婚約した頃より存じておりますのよ。
実際にこの奇病の件で何度となく涙で枕を濡らした事もあったのですから……。
私より一つ年下の王女殿下であられたティーネ様。
幼い頃より本当に凛とした、それでいて華やかでお美しくも気高き大輪の薔薇の様な御方。
何と申しましても私の初恋は陛下ではなくティーネ様だったのですもの。
陛下との婚約=誰よりも一番近くでティーネ様とお話が出来ると知り即OK致しましたわ。
まぁ普通に王家よりの打診で、そこは断れる事は出来ませんけれどもね。
ティーネ様との時間は本当に夢の様に幸せでした。
しかし不幸は突然訪れるのです。
それが例の奇病……私にしてみれば病ではなく呪いですわ!!
『彼方は何者ですか?ここは王家のプライベートエリアよ。家族ではない者が入る事何て決して許されなくてよ』
私はこの時はまだ婚約したばかりの9歳の子供でしたわ。
ティーネ様とは当に顔合わせも済ませればです。
『これからは家族として、将来の私のお義姉さまになるのね』
普段は小さな女王様然とされおられるティーネ様が、溢れんばかりの幼さ全開で微笑まれながらそう仰った筈なのにです。
どうして今はその様に氷点下……生ある物全てを凍らさんばかりの永久凍土の様な笑みを湛え、厳しく私を誰何されるのかとその場で悲しくなって泣き出してしまいましたわ。
私達の傍に控えていた者達によって王太后様……前王妃様とレオン様が駆け付けて下さり事なきを得たのですが、その際敵認定されてしまった私はティーネ様の視線の怖さに数日間震えておりましたのよ。
その後もあの呪いの症状が出る度に色々と悲しい思い出はありますが、その反面大切なティーネ様がお労しくもありましたわ。
何故なら家族や友人との大切な記憶がなくなってしまうのですもの。
本当にあの奇病は恐ろしい。
奇病を患う本人もですが周囲の者達の精神もかなりの確率で抉られますわね。
そして何故王族女児にだけ発症するのか。
レオン様はティーネ様の頃より百年先に起こりえるだろう未来の者達の悲しみを取り除きたいと密かに研究をさせておられました。
ふふ、本心はご自分でなさりたかったのですが如何せん陛下はそちら方面の才能には恵まれなかった様なので早々にシフトチェンジされたのですわ。
なのにまさかエルが誕生してしまった。
心より嬉しい事なのに何故か素直に諸手を上げて喜べない。
9歳の私が味わった恐怖と悲しみをまた誰かが、いえ何よりエルネスティーネが病を患う事を悲しみました。
ですが私も一国の王妃、何時までも悲しんではおられません。
既に多くの者がエルの為に動いております。
王妃の私に出来る事。
王宮の内向きに関する事、また社交界と言う世界に住まう貴族達をきちんと統率致しましょう。
万が一子息や令嬢達の口によりエルの奇病を揶揄する様な輩が現れればです。
その時はティーネ様を見習い、それらを密かに社交界では生きてはいけない様に屠りましょうか。
エル、私は何があろうとも貴女の味方ですからね。
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