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第二章
6 デジャブ?
しおりを挟む「エルネスティ-ネ嬢これは愛らしい貴女へのプレゼントだよ」
目の前に差し出されたのは大きな熊のぬいぐるみ。
「ご、御機嫌よう……ですわ⁉ じ、しゅ、シュターデン公爵様⁉」
何故かジーク様をお見受けするのに抵抗を感じてしまう。
そんな私の戸惑いなんて関係ないとでもいう様にジーク様はとてもご機嫌が良いみたい。
「そこは是が非ともシュターデン公爵ではなくジークと呼んで頂けると嬉しいな」
真っ白な歯と笑顔が眩しいからの……。
「じ、じーくさまぁあ?」
どきどきどきどき。
うぅ、ジーク様の期待を込めた熱い眼差しと衝撃的な言葉によって私は動揺しっぱなしだ。
私の心臓は物凄く煩くて、挨拶の時につい頂いてしまった大きな熊の、とてもふわふわモコモコとして極上の触り心地の良いぬいぐるみへ掴まる形でしっかりと抱き締めてしまった。
そんな何とも頂けない子供な私の様子にジーク様の笑顔。
ジーク様程のイケメンともなれば笑顔一つで国を一つ滅ぼしかねないですわっっ。
本当にどうなっているのかしら。
こんなにも素敵に微笑まれられるジーク様のお姿を近くで見るのは初めてだわ。
その所為なのかしら。
胸が先程よりどきどきとしてしまうのは……。
でも何故か切ない気持ちにもなるのはどうして?
私は頂いた熊のぬいぐるみをぎゅっと強く抱き締める。
ねぇどうしてこんな風に私へ気を遣って下さるの。
エルネスティーネは本当に何もわからないのです。
何故こんなにもお優しいのに16歳のエルネスティーネは貴方の前で死を選んでしまったの。
今の私は16歳ではなく9歳で、貴方と出逢うほんの少し前に目覚めたの。
覚えているのは家族の事。
とは言えそれまでの過去の記憶も正直に言えば酷く朧気で、ましてやジーク様と婚約をした以降の記憶はあの最後の時のものしかないのです。
ううんそれだけではない。
はっきりとは覚えてはいないの。
ただ遠い記憶の中で微かに覚えているのはジーク様の物憂げだけれども酷く優しい眼差しと、本当は私ではなくジーク様が泣いていらっしゃるのかと思うくらい悲しい表情。
悲しいお顔の理由なんてわからないわ。
何故ジーク様が悲しいのかさえも今の私にはわからない。
で、でも抑々ジーク様にはアーデルトラウト様と言う恋人がいらっしゃる筈なのに、どうして婚約も交わしていないただの友人の妹でしかないモブの私へ会いに来られたの?
確かに私達は全くの他人ではなく親戚関係と言えばそうなのよね。
とは言え私へ会いに来られただけでも驚きものなのに、一体どうしてなのかしら。
こんなに可愛い熊の、前からずっと欲しいと思っていたものが形となって表れたのですもの。
でも不思議ね。
こんな感じのぬいぐるみを私は以前誰かからプレゼントをされた様な気はするのだけれど……。
私は熊のぬいぐるみを抱き締めたまま心の奥にある違和感について考える。
「エル僕の大切な天使はどうしたのかな?」
「アルお兄……様?」
気づけば……って何時も私の傍には誰かがいる。
例えば今はアルお兄様。
「我が家のお姫様。何時までもエントランスにいては身体を冷やしてしまうよ。さぁ暖かいサンルームでお茶でもしようか。それから余りお勧めはしないけれどジークも良かったら一緒にお茶にしよう。まぁはっきり言って積極的に勧めはしないよ。何しろ僕にはこの可愛過ぎる天使の相手をしなければいけないからね。最初に言っておくが野郎の機嫌取りをする心算もされる心算もないからね」
「お、お兄様ってばそんな!?」
「いいの。エルは気にしなくていいからね」
そう言って私をひょいっと軽く抱き上げればお兄様はすたすたとサンルームへと歩いていく。
その後ろからテアとジーク様もついてくる。
縦抱きにされている故に否が応にもテアは兎も角ジーク様とはがっちりと視線が合う訳で、何ともこれば居た堪れない。
ジーク様の優しい眼差しより視線を逸らせようとアルお兄様の胸の中に顔を埋めればよ。
「僕の天使は何時までも甘えん坊だね。まぁそこが可愛い所だけれど」
それ絶対に違うからあああああああああ!!
斜め上な発言と物凄くご機嫌な様子のお兄様。
私は何時までも甘えん坊ではありません!!
そこは違うのだとはっきり訂正をしたい。
でも訂正すればする程訳の分からないゾーンの中へと入っていく可能性が無きにしも非ずなのよね。
結局アルお兄様の妹大好きシスコン街道まっしぐらは留まる事はない。
これで七年後にテアと婚約間近だったと言う事実が今でも信じられない。
ねぇテア、こんなドシスコンなお兄様の何処に惚れる要素があったの?
何時か、そう何時の日かその心の変化を是非聞かせてね。
私の幸せな人生設計を立てるお手本にするから……。
だけど出来れば森の中でカフェのお姉さんか若しくは薬剤師になりたいかな。
あ、その前にお料理と勉強もしなきゃだわ。
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