25 / 34
第二章
4 ぎゅっとして
しおりを挟む「ん、んーよく寝たぁぁぁぁ」
天蓋のカーテンの隙間より一条の光が差し込む。
私は何時もと変わらず目覚めれば思いっきり上体を伸ば――――。
「「「エル!?」」」
クリアになった視界に行き成り涙ボロボロと滂沱の涙を流し色々と顔面崩壊状態のお父様と王……陛下?
あ、アルお兄様と王妃陛下も涙を流されている……って何故に?
「身体の調子はどうなのエル」
うんお母様は冷静だね。
でも涙でぐちゃぐちゃなお父様達を肘で押し退けふわりと優しく抱き締めて下さる。
ふふ、温かい。
そしてお母様の良い匂いで私の身体と心の中がじわじわと満たされていく。
私もお返しとばかりにギュッとお母様を抱き締め返した所ではたと気付いた。
ここは何処?
「ここは王城よ。因みにここは貴女の部屋でもあるわね」
何もかも理解している様にお母様は答えて下さる。
「私の部屋?王城に⁉」
「ええそうよ。何故なら貴女は王妹である私の大切な娘ですもの。こうして何時でも休む事が出来る様に貴女専用のお部屋が整えられているのよ」
「そう、初めて聞いたわ」
知らなかった。
王城に私の部屋が整えられていたなんて……ね。
でもどうして侯爵家にいた筈なのに、何時の間に私は王城へ伺候していたのかしら。
それで以ってどうして王城でお泊りをしたのかしら……と思えばその疑問についてもお母様が間髪入れずに教えて下さったわ。
まるで何も私が困らない様……に?
「貴女ってば王妃様とのお茶会の途中、お菓子の食べ過ぎで眠ってしまったのよ。テアもそして迎えに来た私も流石に吃驚したわよ。我が家はその様なお行儀の悪い娘に教育をした覚えはないのだけれど。まぁ此度はお腹を壊さなかっただけ善しとしましょう。テアも屋敷で心配していてよ」
「はぅぅぅまたテアに扱かれてしまう〰〰〰〰」
王妃様とのお茶の席で居眠りだ何て本当にあり得ない。
あ゛あ゛ビシビシと見えない幻の鞭をしならせているテアの姿が目に浮かぶ。
「まぁよいではないか。高が居眠り……のう王妃よ」
「えぇそれだけ私達は打ち解け合っていると言う証ですもの。どうかティーネ様も穏便にお願い致しますわ」
「はい、よく存じておりましてよ王妃様」
「うおおおおおおおおおエル!!父は、父はまた可愛い娘に会えて嬉しいぞぉぉぉおおおおおおおおおお」
「げふぉ!?」
宰相なのに脳筋馬鹿力のお父様、娘に対してもっと細やかな力加減と言うものを学んで下さい!!
令嬢にあるまじき呻き声を出しちゃったではないですか。
「父上、エルが死んでしまいます!!」
いやこれでは死なないからアルお兄様。
「……心配をかけてごめんなさい」
私の呻き声に驚いたアルお兄様はお父様の腕より素早く引き剥がしてくれた。
「いいよ。エルが元気であればそれでいいのだからね」
アルお兄様はそう言ってお父様とは違いそっと、壊れ物の様に抱き締めてくれる。
「ふふ大好きよアルお兄様」
「僕もエルが一番大好きだよ」
その後両陛下と共に皆で賑やかな朝食を食べた後私とお母様は王城を辞した。
王妃様は最後までもう少しゆっくりお茶をしましょうって物凄く名残惜しそうにして下さったのだけれどもだ。
『次の定例のお茶会をキャンセルされるのであればよろしいですわよお義姉様』
お母様の地を這う様な低い声音でそう告げられた王妃様は、真珠と見まがう綺麗な涙をポロポロと流されながらも結局最後には泣く泣くエントランスまで見送ってくれました。
因みにお父様は宰相としてのお仕事がある為ご自分の執務室へ、王陛下も隣国の大使が待っていたらしく謁見の間へとそれぞれ側近の人達によって引き摺られて行った。
お兄様はその側近の人達と一緒に宰相府へと戻っていったとか。
未来の宰相様頑張って。
屋敷へ戻った私は当然何時もと変わらず……そこは是が非とも変わって欲しいテアのお説教から始まり、淑女レッスンと講師の先生と一緒にお勉強をしたの。
午後にはテアとお母様と一緒にお茶をしその後はテアと一緒にお庭へ出て散歩をする。
何時もと変わらない日常。
そうして何事もなく夕食を済ませ入浴をし、就寝を迎えた私はふと思う。
何か、そう何かを忘れている様で忘れていない?
忘れると言うかわからないほんの少しの違和感。
でも忘れている事って何がある?
私の家族に王陛下と王妃陛下、クリスお兄様に始まり第二王子のベルンお兄様でしょ。
第三王子のエーベルお兄様に第四王子のラインお兄様。
お兄様のご婚約者の令嬢方に親友のアンネとルートも覚えていてよ。
ほら、何も忘れてはいない。
でもそれならば何故……?
わからない。
一体何に対しての違和感なのかはわからない。
そう忘れてはいけないものは何もない……筈。
かちゃ
「エルまだ起きていたの?」
「お母様?」
「今日は身体も疲れていると思うから早く寝なさい」
お母様が様子を見に来てくれたみたい。
「ね、お母様」
「なぁにエル」
「お願いだからぎゅっとして下さい」
少し驚いた顔をされたと思えばその一瞬後朗らかに破顔一笑されるお母様。
「幾つになってもまだまだエルは甘えたさんね」
「何時もじゃないもの。偶に……だもの」
そう何時もはちゃんとお姉さんだものね。
「わかったわ。良く休むのですよエル。愛しているわ私の大切な宝物」
お母様はそっと私を布団ごと抱き締めれば額にキスをしてくれる。
「おやすみなさいお母様」
私は今日もお母様達の溢れる愛に包まれ夢の世界へと誘われていく。
違和感を忘れるかの様に……。
1
お気に入りに追加
265
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる