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第一章
7 恋心には封印を
しおりを挟む私の年齢は9歳。
テアが我が家へきてまだ半年も経ってはいない。
そしてまだジークヴァルト様との婚約は調ってはいない。
16歳の私からすれば現在は七年前であり、多分このまま何もしなければジークヴァルト様との婚約まで二、三ヶ月しか猶予はない。
そう言えば何故私は死なずに七年前へと戻ってしまったの⁉
確かに三階のバルコニーから飛び降りたと言うのに死んでいないどころか、何処も怪我らしい怪我一つもなく……って子供に戻ってしまったのかしら。
あ、もしかしなくても16歳の私の方が全てが夢だった?
うんうん、夢ならば飛び降りても死なないし怪我もしないよね。
それにしても何ともリアルで生々しい夢だよねー。
全ては夢……いやいやいやいやでは私の長年の初恋すらも全部夢――――ってそんな事はないでしょ!!
だってちゃんと全部、そう全て……え?
長年の初恋?
何それ?
わから、ない。
考えようとすれば頭の中で霞がどんどん広がって……って痛、い。
まるでこれ以上深く考えるなと、何かが私へ警告している様な……。
実際暫く何も考えなければ頭痛はスーッと何もなかったかの様に収まっていく。
このまま何も考えずにただ無為に過ごせばいいの?
それは嫌!!
もうあの悲しい選択はしたくない!!
ずっと好きだったのに、振り向いて欲しくて沢山努力したのにそれでも振り向いて貰えなくて、もうずっと前に心の中ではわかっていた……の。
ジークヴァルト様とあの御方との関係を……。
貴族令嬢ならば誰だって知っているわ。
でも私は認めたくはなかったし受け入れたくもなかったの。
だから鬼教官宜しくと言ったテアの扱きに文句も言わず完璧な淑女となる為だけに血の滲む……本当に出血多量で死にそうになるくらいの努力をしたの。
野猿令嬢と呼ばれない為に。
言葉遣いに始まり小さな所作一つ。
礼儀作法は勿論将来の公爵夫人としてジークヴァルト様の隣に立つ為に相応しい女性になろうと、沢山頑張ってきた事が夢だなんて……⁉
ずっと頑張って正式な妻になれば全ては変わるものだと馬鹿みたいに信じていたあれが……夢?
ではあの最後に見せられたジーク様とあの御方との情事も夢なの?
霞がかりながらも記憶の糸を辿れば、あの時に感じた想いは記憶となって鮮やかに蘇っていく。
全ては夢で私の思い込みではないわ。
少なくとも16歳の私が死を決意する程の、そして死んだ?私の想いを夢という言葉で終わらせはしない。
ズキズキズキズキ。
あぁわかっている。
もうこれが限界なのでしょ。
でも私もこれからの人生と言うものがあるのだから頭痛後時に負けてはいられない。
寝台の上でのたうち回り暫く考えを放棄し頭痛をやり過ごす。
はぁ本当にこれは一種の拷問かしら。
痛いのは余り好きではないのだけれど……。
これ以上記憶を辿るのはやめる事にしたわ。
今から考えるのはこれから先についてだ。
余り理解は出来ていないけれどもどうやら時間が戻ってしまったのならばよ。
馬鹿の一つ覚えの様に二度も同じバッドエンド的な婚約を交わす事は是が非とも回避したい。
とは言えあの婚約は王命……だったよね。
うーんどうしよう。
『この婚約を交わしたら将来私は自死をしてしまいます。なので陛下何卒この婚約はなかった事にして下さい』
等とお馬鹿発言を申し立てたとしても、おいそれと命令を発した陛下でさえ簡単に王命を覆す事は出来ない。
また王陛下のお心を色々な意味で苦しめてしまう。
それは私の本意ではないし……。
王命とはそれ程までに重く力を有するもの。
だからこそ王族との姻戚関係を持つ公爵家の若き当主であられるジークヴァルト様でさえ回避する事は出来なかった。
ましてや王妃様はジーク様の血の繋がった姉君ですものね。
はぁそれにしても私って死を選ぶ程にジークヴァルト様を好きだったのか。
一途だよね。
いやいや一途だけで後先考えずに他人様のお屋敷で死ぬって所が考えなしだわ。
我ながら反省しまくりって、時間が巻き戻った所で反省してどうするのよぉ。
恋は盲目って本当に怖い。
今は恋なんて感情は知らないし、出来れば知りたくはない……か。
ハッピーエンドならOKだけれど、切ないバッドエンドはしたくない。
そうして何となく、そう何となくだったのよ。
死を選んだ未来の、16歳のエルネスティーネがとても可愛そうに思えた瞬間ぽたぽたと涙が零れ落ちていく。
泣き止まなければと思えば思う程にぽろぽろと、いやもうそれは見事なまでに滂沱の涙を流しこの際だから思いっ切り涙が枯れ果てるまで私は泣いた。
報われなかった16歳の私の恋。
きっと未来の私の家族は私の選択に対しとても悲しんでいるだろう。
その中でジークヴァルト様、ほんの少しでも婚約者だった16歳のエルネスティーネを哀れだと思って下さっておられますか。
ダイブしたその先は何もわからない。
遺体はどうなったのか。
時間が巻き戻った私のお葬式はどうなったのか等つらつらどうでもいい事を考えつつ私は泣いた。
それでもよ。
こうして死なずに過去へ戻ったと言う事はきっと何か意味があるのかもしれない。
だとすれば私の取るべき道は一つだけ。
「同じ道だけは決して繰り返さない。だから16歳の初恋に関する諸々の想いは今ここで綺麗に蓋をしてしまおう。そして私は――――」
うん、私はこれから全力でジーク様との婚約を阻止するわ。
そして今度こそ私自身の幸せの為だけに往々しく立派に生きて行く。
ビバ、明るい未来よ!!
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