121 / 122
終章
15 アナベルの失態
しおりを挟む「まぁまぁアナベル一体どうしたの? とても顔色が優れないわ。さぁ何時までもそんな所で突っ立っていないでお食事にしましょう。今朝はニンジンのポタージュとフルーツサラダに薫製したサーモンもあるわよ。あぁそれとも少しお部屋で休んだ方がいいのかしら」
「え、エヴァ様〰〰〰〰」
「え、なぁにアナベル?」
ご機嫌な様子のエヴァとは対照的にアナベルの心は何処までも奈落の底へと堕ちていく。
アナベルの意思に反して時間は非情にも?いやそこは普通に時を刻んでいくのである。
そうして朝食を終えたエヴァはアナベルに伝達魔法を用いてラファエルへ先触れを出す様お願いをした。
魔法の使えないエヴァにとってこういう時は何とも遣り切れない気持ちになってしまう。
魔力は人並み以上なのに……。
「……私は平民となんら変わらないわね。こんな初歩的な伝達魔法でさえも出来ないのですもの。本当に私は王族なのかしら」
つまらない愚痴を零しても仕方がないと思いつつもつい漏れ出てしまう本音。
モヤモヤする気持ちを必死に抑え込もうと物憂げな視線を外へと向けるエヴァに、アナベルは思いっきり彼女へ喰らいついた。
「何を仰いますエヴァ様!! エヴァ様の魔力は私……いいえ、父王陛下の魔力よりも遥かに勝っておられるではないですか!!」
確かに生まれ持った魔力は測定値が振り切れる程のものとは言え……。
「でもねアナベル、そう言ってくれるのはとても嬉しいのだけれども、幾ら無尽蔵に魔力を保有しているからと言えどもそれを使う能力がなければ何もないのと同じよ」
「いいえ、いいえエヴァ様それは違います。遠く遥か昔にたったお一人だけいらっしゃったではありませんかっ」
冷静なアナベルが何時にもまして両手に力を入れて力説する。
しかしそれを快く思わないのはエヴァである。
美しいエヴァに似合わない眉間に深く皺を寄せ、恫喝というものには程遠いのだが、それでも常より比べれば幾分低い声でアナベルに問い掛けた。
「まさかアナベル貴女はあの大変事を救った乙女の事を言っているのではないでしょうね?」
「――――そうだと申し上げればどうなさいます?」
「はぁ、どうもしないわ。私は女神の様な力なんて持ってはいないただの人間なのよ」
「ですが古の光の乙女はライアーン王家の始祖ですわエヴァ様」
「だから? 血が繋がっているから? そんなものはただの妄言よ。まさかアナベルまでライアーンにいる長老達の様な考えだとは思わなかったわ。 もう十年、十年もの時間が経ったのよ。そんな妄言を言う者はもういないと、でもアナベルが言うくらいなのだから、今私が帰国すればきっとまだそんな妄言を言う者達がいても可笑しくないわね。やはり当初の予定通り第三国の方がいいのかしら? 私を全く知らない場所なら私は幸せになれるのかしら……」
最後はやや涙声で、自分へ言い聞かせるようにエヴァは呟いた。
もの悲しい表情をするエヴァの姿を見たアナベルは自分が取り返しの出来ないミスを犯した事を悟ってしまった。
それに気付き慌ててエヴァへ謝罪するのだが、一度出てしまった言葉はもう元には戻せない。
それこそ覆水盆に返らず……である。
「エヴァ様……本当に申し訳、御座いません」
アナベルは両肩の力を落とし沈痛な面持ちで謝罪の言葉を繰り返す。
一方エヴァもまた自身のエメラルドグリーンの瞳に光は消え、悲しみを湛えていた。
「……陛下の所へ行ってくるわ」
「では私も――――」
顔を上げ、自分も供をするとエヴァに言いかけた瞬間――――。
「お願い、少し一人にさせて頂戴」
やんわりとエヴァは拒否の意思を示す。
二人だけの生活において初めての事だった。
エヴァを慕うアナベルは当然ショックを受けたのは言うまでもない。
だが悲しみを湛えた瞳をするエヴァに言われればアナベルはもう何も言葉を発する事も出来ない。
文字通り指を咥えたままエヴァがバスケットにクロワッサンを詰め、奥の部屋にある隠し通路へと姿が消えていくのを忸怩たる思いで見つめるのみ。
いや、消えゆくエヴァの姿をつぶさに、喰い気味にアナベルが見つめていたのは言うまでもない。
0
お気に入りに追加
249
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
常世の守り主 ―異説冥界神話談―
双子烏丸
ファンタジー
かつて大切な人を失った青年――。
全てはそれを取り戻すために、全てを捨てて放浪の旅へ。
長い、長い旅で心も体も擦り減らし、もはやかつてとは別人のように成り果ててもなお、自らの願いのためにその身を捧げた。
そして、もはやその旅路が終わりに差し掛かった、その時。……青年が決断する事とは。
——
本編最終話には創音さんから頂いた、イラストを掲載しました!
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない
結田龍
恋愛
「君との婚約を破棄する!」と六人目の婚約者に言われた瞬間、クリスティーナは婚約破棄の成就に思わず笑みが零れそうになった。
ヴィクトール帝国の皇女クリスティーナは、皇太子派の大きな秘密である自身の記憶喪失を隠すために、これまで国外の王族と婚約してきたが、六回婚約して六回婚約破棄をしてきた。
悪女の評判が立っていたが、戦空艇団の第三師団師団長の肩書のある彼女は生涯結婚する気はない。
それなのに兄であり皇太子のレオンハルトによって、七回目の婚約を帝国の公爵令息と結ばされてしまう。
公爵令息は世界で初めて戦空艇を開発した天才機械士シキ・ザートツェントル。けれど彼は腹黒で厄介で、さらには第三師団の副官に着任してきた。
結婚する気がないクリスティーナは七回目の婚約破棄を目指すのだが、なぜか甘い態度で接してくる上、どうやら過去の記憶にも関わっているようで……。
毎日更新、ハッピーエンドです。完結まで執筆済み。
恋愛小説大賞にエントリーしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる