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終章
14 アナベルショックを受ける
しおりを挟む「おはよう御座いますエヴァ様」
「おはようアナベル。今クロワッサンを焼いている所なの」
「あ、あのエヴァ様? 何やら今日は随分クロワッサンの量が多いと思うのですが?」
台所にある広い調理台の上には大きめのバスケット二つ分は優に入りそうなくらい多量のクロワッサンが、次から次へと焼きあがっているのである。
ぱっと見た感じでは約30個以上は確実にありそうだ。
二人だけの生活なのにどうしてこんなにも多量なクロワッサンが朝食に必要なのか……とアナベルは俄かに考え込む。
何時も二人で食しているとは言え、どんなに多く焼いたとしても6個。
なのに何故今日はこんなに……?
「ふふ、それは持っていく為のものよ」
「はい?」
何処に――――と心の中でアナベルは食い気味にエヴァへと突っ込む。
それを知ってか知らず……ほぼ確実にエヴァは気付いていない。
だからエヴァはそのまま、目の前ではやや呆けた状態のアナベルへと話を続けた。
いや、話すと言うよりそれは報告みたいなものである。
「一つはマックスの所へね。ほらこの1ヶ月もの間ほぼ診療所を放置していたでしょう。それに昨夜のマックスは少し痩せていたと思うの。だからお料理とクロワッサンを届けようと思ったの」
「はぁ……」
それにしてもこの量は多すぎるだろう……とアナベルは変わらず多量のクロワッサンを見つめながらふとある事に気づいてしまった。
エヴァ様は今一つは――――と仰った。
だとすればその続きはあるのだろうか。
いや抑々マックスはエヴァ様が心配なされる程痩せ細ってはいないでしょう!!
あの者にはあのくらいが丁度良いのです!!
不必要な餌付け等必要ありません!!
またしてもアナベルは心の中で突っ込みを入れてしまう。
常に冷静でエヴァ限定の脳筋令嬢なアナベルも次の瞬間ついに心の中だけの突っ込みでは収まらず、思いきり声を大にして叫び、エヴァの前で醜態を晒してしまうとは想像だにもしなかっただろう。
「えぇ残りは私達の朝食とそれから陛下へお届けするのよ」
エヴァはそう言い終えれば常とはまた違う何とも柔らかな笑みを湛えている。
一方アナベルはと言えばだ。
エヴァの言葉を聞いたと同時に巨大ハンマーで脳天を叩きつけられた様な衝撃を受けてしまった。
な・ん・で・す・と――――っ!?
「ふふ、陛下もエルさんとして診療所へいらしていた時に、私の焼いたクロワッサンを凄く気に入って下さったの。だから諸々のお礼も兼ねてこれからお届けしようと思っているのよ。ほら、アナベルも話していたでしょう。毎晩陛下の許へ行く為の隠し通路があるって」
にこやかに話すエヴァと対照的にアナベルの心は一気に氷点下まで冷え込んでいく。
そこはにこやかじゃないでしょエヴァ様ぁぁぁああああああああ!!
「えっ、エヴァ様、あ、あの、そのつまりどの様にして急にクロワッサンを持って行くと言うお考えに至ったのでしょうか!?」
アナベルは心の中が急激に冷え込んでいく中で努めて冷静さを失わない様に、そして敬愛してやまないエヴァを脅えさせない様に慎重且つ声音が硬くならない様に努め、最大限自身の心を律してエヴァへ質問をする。
だがエヴァはそんなアナベルの心情を全くと言っていい程気づいてはいない。
いやエヴァにとってアナベルは強くて優しい自慢の姉の様な存在。
エヴァへ心酔しきっている、やや残念な脳筋令嬢だという正体を知らないのである。
だから何時もの様にエヴァは沸かした湯をポットへ注ぎながら機嫌良く返答をした。
「あら、アナベルは聞いていなかったのね。陛下と私は夫婦なのよ。だからお好きなものをお届けするのは当然でしょ?」
はああぁぁあああ゛あ゛っっ!!
「こほん、恐れながらエヴァ様それは――――」
聞いていましたともっ!!
えぇお傍近くでです!!
でもそれは何時もの様に余りの眠気で、そこは何でもいいからという感じで軽くお返事なさったのでは……っ⁉
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