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終章
2 アナベルのクロワッサン
しおりを挟む手を付けない=食べ物を粗末にする事に対しエヴァの罪悪感は半端なかった。
この十年間でアナベルとの離宮生活に置いて培われた勿体ない精神。
王族なのにどうなのか……と突っ込まれるのかもしれないが、王族だからこそ勿体ない精神は大切なのだとエヴァは理解をしていた。
本来ならば食べ物のお残し、無駄にする事はタブー。
だがそのタブーを犯してでも……いや、タイミングが合わなかったのとほんの少しだけ意地を張ってしまっただけ。
とは言え一度態度として露わにしてしまえば、また時間が経過すればする程に素直になる事も出来ず、用意されたものを食べる事も出来なかっただけでなく、彼らと対話をする事も拒んでしまい今に至っている。
しかし今エヴァにとっての緊急事態。
そう彼女は嘗てない程に空腹なのだ!!
少しだけ、そうほんの少しお紅茶とクロワッサン、くらいなら大丈夫……よね?
エヴァは徐にソファーへと座り、籠に盛られているクロワッサンへおずおずと手を伸ばしクロワッサンを皿に載せる。
そして一口サイズに千切ると待ってましたとばかりに口の中へクロワッサンを迎え入れ、ゆっくり味わう様に咀嚼した。
「ふふ、アナベルの味がする」
それは料理上手なエヴァとは違いアナベルの作るパンはどれも力任せに捏ね過ぎる故なのか、焼いても綺麗に膨らまず何処かゴムの様な食感が否めなかった。
このクロワッサンも然り――――である。
パリッとサクッ、ふわっとした食感の筈が、バリっからのネタっとしていた。
でも決して生焼けではない。
ただクロワッサン独特の層が織りなす食感は皆無である。
決して美味しいというモノではないが、エヴァにとってこの離宮で初めて作り、食べたパンがこれだったのだ。
恐らくこのクロワッサンも料理の苦手なアナベルがエヴァを心配して作ってくれたのだろう。
それに……空腹は最上のソースというのをエヴァは久しぶりに身を以って痛感した。
アナベルのパンは涙が零れる程に美味しいと感じたのだから……。
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